「いいことも悪いこともいい思い出」 =高橋大輔 引退会見一問一答

構成:スポーツナビ

今ほしいものは「夢」

ソチ五輪のFS「ビートルズメドレー」が現役最後の演技となった 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――9月半ばに引退を決めてから今日までに、どんな心境の変化があったか? また、引退を発表した今の気持ちは?

 決めてから今までは特に変わらずというか。決めた時は「そうだったんだな」と自分自身に対して思って、この発表をする日まではすごく充実したというか、すっきりした時間を過ごせたかなというふうに思っています。

 そこで決断したことで、自分の中で変化はないと思うんですけれど、人前で言ったということで、僕自身も真剣に次に向けて考えなきゃいけないと思いますし、その後何をするのか期待をしてくださっている方はいてくれると思うので、その方々に「僕はこういう道を選びました」と堂々と見せていけるように、自分が決めるまで何事もないように、ちゃんと自分と向き合って生活していきたいなと思っています。


――4月の休養宣言の際に「今ほしいものはパートナー」と答えていたが、あらためて今ほしいものは?

 夢ですかね。目標です。今までは何も考えないで流れのままできて、ふと自分が次に(進むと)なった時に、そういえば大きな決断って人生でしてこなかったなと。皆さん、社会人になった時にされていると思うんです。「こういうふうになろう」「ああゆうふうになってやろう」と。それを今、遅れて経験している感じがするので、いろんな話を聞いて、自分で迷いながらやっていこうと思います。(それが)大きな目標です。

――ソチ五輪のフリースケーティング『ビートルズメドレー』が現役最後の演技となったが、今振り返って、(メドレーの)最終曲の『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』を滑っている時はどんな思いを表現できたと思うか?

「ビートルズメドレー」は演技として、いい思い出は多くなかったです。よかったと思えた試合はほとんどなかったと思うんですけれど、どんな時でも最後のその曲のところになると、出来が悪いことの方が多かったんですけど、悪くてもすごくいつも温かい気持ちになれたので、あのビートルズのあのメドレーに出会えて本当によかったなと、最後があの曲でよかったなと思います。

 滑っている時に感謝の思いというのは、あまり考えていないと言ったら嘘になりますけれど、振付師の方からそういうテーマをいただいて、常に頭のどこかにそういう気持ちがありました。今まで応援してくれた方の反応も「このプログラムは違うね」と言っていただいて、自分の中でもそういう気持ちが常々あったなと思っているので、それがファンの方や応援してくださっている方に伝わって、そういうふうに考えてくださったことはよかったなと思います。

――高橋選手は常々、「男子のフィギュアがもっと注目されるように」という話をされてきたが、今の日本男子の中で自分が果たしてきた役割と、今後の日本の男子に求めるもの、エールを聞かせてください。

 果たしてきた役割と言われると、僕自身も必死にというか、男子フィギュアスケートが盛り上がるようにただただ、演技で成績を出すしかないんだとか、あまりいろんなことを考えずにやってきた結果がこういう形になって、いろんな方に見ていただけるようになりました。それは、女子のフィギュアスケーターの存在であったり、本田(武史)先生であったり道を切り開いてくれた方がいて、それに向かってやってこれました。自分が切り開いたというよりは、いろんな方に導かれて、その道に乗っかってやってこれたので、感謝の気持ちしかありません。

 今後、男子は羽生(結弦)選手がトップとして引っ張っていくと思うんですけれども、彼を押すような存在がどんどん出てきて、また激しいバトルを、当事者じゃなくて応援する方として、そのバトルを見たいなという気持ちでいます。やはり続くことがみんなに見ていただいたり注目していただいたりしていくことになると思います。それをプレッシャーに感じてほしくないんですけれど、頑張ってもらいたいなと。後はどんな形になるのか分からないですけれど、それを少しでも支えていけたらなと思います。

休養の浅田にエール「ゆっくり考えて」

――今後、スケート以外にはどんなことに挑戦してみたいか?

 スケート以外への興味というか、そういうふうに聞こえるとは思うんですけれど、自分がスケートをどういうふうに思っているかというところを見たいなと思うので。ただ、ダンスがもともと好きで、時間もできますし、スケートにもつながることですし、何かにつながると思っているので、すごくやりたかったんですけれど、スケート以外に目が向けられなくて。(今まで)なかなかできなかったことをやっていきたいなと思います。

――日本のフィギュアスケート界をここまで引っ張ってきたのは高橋選手と浅田真央選手だと思う。浅田選手は今休養しているが、今後の競技生活について何か話すことはあったか?

 そういうことについては一切連絡を取っていません。彼女自身も、自分自身の正直な気持ちで答えを出すのが一番いいことだと思います。信頼関係があるというか、戦友として戦ってきた中で、僕らは相談とかはなく、決めてきたことに対して全力で応援するよ、という感じなので。僕は一言、言おうと思ったんです。浅田選手に「引退するよ」って(笑)。でもやめておこうと思って。

 浅田選手にはゆっくり考えて、それこそ僕なんかより決断するのはずっと大変だと思うので、周りのことを気にせずに、自分の気持ちに正直に。彼女も本当に小さい時から頑張ってきたので、ゆっくり自分の出す答えを、僕も聞かせてもらいたいなと思います。

――高橋選手のようになりたいと思ってフィギュアスケートを始めた選手に一言。

 僕なんか目標にせずにもっともっと上を目指して日々、すぐ諦めるんじゃなくて、ちょっと踏みとどまって、もう本当にだめだと思うまで続けてほしい。もしフィギュアスケートという中で大きな目標を持って生活しているのであれば、できるだけ長く続けて、その選手が求めないものが来るかも分からないですけれど、すべてが経験だと思うので、それでよかったなと思うようなスケート人生を歩んでもらったら一番だと思います。

(取材協力:野口美恵)

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