歴史的惨敗から立ち直りつつあるブラジル ドゥンガ体制復活で取り戻した自信

大野美夏

懸案のポジションは両SB

新体制3戦目では宿敵アルゼンチンを撃破。チームも自信を取り戻しつつある 【Getty Images】

 さて、ドゥンガ就任後3試合目となる対戦相手は、宿敵・アルゼンチン。場所は南米から遠くはなれた中国の北京だが、両者のライバル心はどこが舞台でも変わることはない。アルゼンチン戦後に控える日本戦を含めた2試合に招集されたのは次のメンバーだ。

GK:ジェフェルソン(ボタフォゴ)、ラファエウ・カブラウ(ナポリ/イタリア)、マルセロ・グローエ(グレミオ)

DF:マリオ・フェルナンデス(CSKAモスクワ/ロシア)、ダニーロ(ポルト/ポルトガル)、ダビド・ルイス(パリ・サンジェルマン/フランス)、フアン(インテル/イタリア)、ジウ(コリンチャンス)、ミランダ(アトレティコ・マドリー/スペイン)、フィリペ・ルイス(チェルシー/イングランド)、ドドー(インテル)

MF:ルイス・グスタボ(ボルフスブルク/ドイツ)、エリアス(コリンチャンス)、ソウザ(サンパウロ)、オスカル(チェルシー)、エベルトン・リベイロ(クルゼイロ)、カカ(サンパウロ)、ウィリアン(チェルシー)、フィリペ・コウチーニョ(リバプール/イングランド)、ロムロ(スパルタク・モスクワ/ロシア)

FW:ロビーニョ(サントス)、ネイマール(バルセロナ/スペイン)、ジエゴ・タルデリ(アトレチコ・ミネイロ)

 今回注目を集めたのはカカの復帰だったが、18年ロシアW杯を目指すわけではなく、短期的にセレソンに協力するような形になる。

 要所要所にブラジルW杯を経験した選手を置きながら、一番の懸案ポジションと言われているのがサイドバック(SB)だ。エクアドル戦後、右SBのマイコンが規律違反でメンバーから外されたことは大きな混乱にはならなかったが、SBのレギュラーの座は空席となっており、競争が激化している。

 アルゼンチン戦で先発したのはダニーロとフィリペ・ルイスだったが、まだまだレギュラー定着レベルには至らず。守備ができるのはもちろんのこと、クロス、自らシュートを決めるなど、いかに攻撃力を示せるかが、レギュラー獲得の鍵になるだろう。

ジエゴ・タルデリの2ゴールで宿敵に勝利

 試合前はネイマール対メッシが見どころとなっていたスーペルクラシコだが、ブラジルはネイマールのゴールなしに2−0の勝利をもぎ取った。

 アルゼンチン戦に臨むにあたってドゥンガはセットプレーでの得点力を上げるため、徹底的に練習を繰り返した。手の内を公開しないよう録画を禁止し、それでも録画した人たちを退場させたほど厳重だった。

 上背のあるミランダとダビド・ルイスを上げ、ジエゴ・タルデリはヘッド、低いボールともに反応できるように配した。またセットプレーの守備では、右サイドにウィリアン、センターにネイマール、左サイドにジエゴ・タルデリを配置し、ボールを奪って即座に攻撃への切り替えができるようシミュレーションを繰り返した。

 力が均衡した両者のバランスを崩すにはセットプレーが鍵になるというドゥンガの狙いは的中した。ブラジルの2点はセットプレーからジエゴ・タルデリが決めたものだった。ブラジルW杯ではフレッジが点取り屋の役目を果たしきれなかった悪循環を、タルデリは見事にはねのけて、点が取れるセレソンのセンターFW像を取り戻した。 

 29歳のジエゴ・タルデリにとって、これがセレソン初ゴールとなった。「ドゥンガがセレソン監督に返り咲き、僕にもチャンスが来るかもしれないと期待した」とジエゴ・タルデリは言う。実はドゥンガが監督だった09年、ジエゴ・タルデリはセレソンに招集されたことがある。当時は定着することができなかったが、今回は2ゴールを決め、これまでの批判をすべてはねのけた。

 現在、アトレチコ・ミネイロを率いる元セレッソ大阪のレヴィー・クルピ監督は、「ジエゴの強みはスピードとテクニック。アトレチコにとってだけでなく、今やセレソンにとっても強力な武器だ。素晴らしいゴールを決め続けている重要な選手」と、高く評価している。

良い物差しとなる日本戦

 強豪国、それもアルゼンチン相手に無失点で勝利したということが、強いセレソン復活のシンボルになった。そして、選手たちは早くもドゥンガの色に染まりつつある。ダビド・ルイスが「ドゥンガの熱血さが選手たちに伝わってくるんだ」と言うように、指揮官のリーダーシップ、選手たちの心を動かすスピリットによって、セレソンはチャンピオンの姿を取り戻してきている。

 正直なところ、14日の日本戦に大きな課題を持って臨んでいるわけではない。自信回復に向け、一歩一歩着実に前へ進んでいるブラジルにとって、今は勝ち癖をつけることが重要となる。そういう意味で強豪国でもないが、W杯に出られないような弱小国でもない中クラスの日本は格好のスパーリング相手だ。日本も新体制となり、始動したばかりのチームだが、ブラジルもさまざまな選手、いくつかの戦術をテストしてチームを作っている最中ということに変わりはない。ブラジルにとって日本戦は、怖いもの知らずで向かってくる相手に対して、どう王者のサッカーができるかを知る良い物差しになるだろう。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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