素晴らしいレース…悲劇が起こるまでは=F1日本GP総括

田口浩次

ロズベルグを抜いたハミルトンが独走へ

トップ争いはハミルトン(手前)とロズベルグの一騎打ち。ハミルトンは今季8勝目を挙げ、チャンピオンシップ争いでもリードを広げた 【写真:ロイター/アフロ】

 ハミルトンはDRSを利かせ、1コーナーの飛び込みでアウトから一気にロズベルグをオーバーテイクしてみせた。この後は、どんどんロズベルグを引き離していく。35周目に再びタイヤ交換を終えると、ハミルトンのラップタイムは1分51秒台と、ファステストラップを刻むほどになっていた。このときロズベルグのラップタイムは1分52秒台後半から53秒台であったため、チームは無線でハミルトンに「52秒台のペースまで落とそう」と話しかけたが、ハミルトンは「今の状態で快適な走りができているからこのままいく」とペースダウンを拒絶した。攻めて勝利を獲得したいハミルトンの強い意志が感じられる無線内容だった。

 メルセデスの2台がトップ争いをしている後方では、ウエットコンディションを味方につけていたのがレッドブルの2台だった。セバスチャン・ベッテルとダニエル・リカルドは、エンジンパワーに勝り、前を行くメルセデスエンジン勢のウィリアムズの2台を早々に料理すると、10秒以上前にいたマクラーレンのバトンを毎周1秒以上詰めていく。そしてバトンが31周目にタイヤ交換をしたタイミングで、まずベッテルが、42周目に再びタイヤ交換に入ったタイミングでリカルドが順位を上げて、メルセデスとレッドブルがトップ4を独占する形となった。だが、こうしたメルセデス2台の争いやレッドブルの追い上げの中で、1994年以来の鈴鹿でのウエットレースは大きな悲劇を呼んでしまった。

ターン7で悲劇、ビアンキが重機に激突

ターン7付近、ビアンキはコース上に入っていた重機に衝突。病院に搬送され、緊急手術を受けた 【Getty Images】

 41周目、18位を走行してたザウバーのエイドリアン・スーティルがターン7でコースアウト。バリアに激突してマシンをストップさせた。すぐに鈴鹿サーキットのマーシャルスタッフが駆けつけ、ドライバーの安全を確認後、マシンの撤去作業を開始した。クレーンを装着したトラクターのような重機でマシンを釣り上げてコースの外へ。そして、マシンが釣り上がった約2分後に悲劇が起きた。

 マルシャのジュール・ビアンキがスーティルと同じターン7でコースオフ。マシンコントロールを失った状態で重機の後部に激突したのだ。しかし、国際映像には重機の影に隠れてビアンキの姿は見えなかった。そのため、何度もマルシャのガレージやピットが映し出されたのだが、その理由が分からなかった人がほとんどだった。

 コース上では43周目にセーフティーカーが入り、ドクターカーが事故現場に駆けつけた。ドクターによってビアンキの状態が伝えられると、46周目に赤旗が振られて再びレースは中断。その後、「再開はしない」とのアナウンスされ、レースは終了した。ルールに則り、46周から2周を引いた44周終了時点での結果が正式リザルトとなり、優勝はハミルトン、2位はロズベルグ、そして3位は44周目にタイヤ交換に入ったベッテルの方が早くラップを消化していたことから、リカルドではなくベッテルが表彰台を獲得した。

 実はレース終了時点では、表彰台に上がったった3人はビアンキの事故について知らされておらず、赤旗のタイミングが2時間レースのルールに引っかかるので中止になったと思っていた。これはロズベルグが無線でチームに対して「これ、再開するの?」と聞いていたことでも明らかだ。3人は表彰台に向かうまでに初めてビアンキの状態を聞き、シャンパンファイトのない表彰台となったのだった。

自発呼吸との報道もあるが、真相は不明

 ビアンキは救急車で四日市市にある三重県立総合医療センターへ17時36分に搬送。CTスキャンの結果、頭部に深刻なダメージがあり緊急手術が開始された。20時17分、プレスルームにてFIA(国際自動車連盟)がアクシデントの状況と搬送先、緊急手術について説明し、今後の情報は病院側から出てくると発表した。

 その後、病院、鈴鹿サーキット、FIA、マルシャが協議して、ビアンキの容体に関する公式な情報のアップデートはマルシャ広報から発表されることに変更となった。一部では手術が終わり、ビアンキは自発呼吸できている状態で集中治療室にいるとの報道があったが、その真相は不明だ。

 荒天の中で行われた今年の日本GPは、レース内容は間違いなく人々の記憶に残るような素晴らしいものだった。しかし、もしビアンキが重篤な状態に陥った場合は、94年サンマリノGP、アイルトン・セナ事故死以来の悲劇に直面するかもしれない。

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