新体操、新時代の潮流にアジアの躍進 フェアリージャパンは強化策の成果を

椎名桂子

16歳の新女王が世界選手権連覇

世界選手権2連覇を達成したクドリャフツェワ。その巧緻性は、見るものを魅了する 【Getty Images】

 2008年北京、12年ロンドンと五輪連覇を成し遂げた絶対女王、エフゲニア・カナエワ(ロシア)は12年に引退。13年シーズンからは、ルールも大幅に変わり、新体操にはより芸術性が求められるようになった。音楽と動き、表情の一致や、演技中にステップを組み込むことが要求され、独創性のある手具操作も求められる。さらには、使用音楽にボーカルも認められるなど、観客にもよりアピールする方向へと、新体操は変わりつつある。

 そんな新時代の新体操の頂点に君臨しているのが、9月22日から28日までトルコ・イズミールで開催されていた世界選手権で2連覇を達成した16歳のヤナ・クドリャフツェワ(ロシア)だ。この新女王を語るとき、はずせないのはその手具操作の巧緻性(こうちせい)だ。あまりにも巧みすぎて、難しいことをしていても難しく見えないのが欠点とまで言われるほど、手具を体の一部のように扱う。当然、ほかの選手には真似できないような操作も演技にふんだんに取り入れており、それがこの選手の個性となっている。

 13年からのルールは、「芸術性重視」と言われていたが、マジックのように難しい演技を淡々と正確にこなしていくクドリャフツェワの演技は、表現力という点ではやや物足りない感もある。しかし、彼女の場合は、手具操作で曲を表現するという新しいタイプの選手なのだ。もちろん、手具操作だけでなく、難度(バランスやピルエット)などの精度も年々上がってきており、前女王・カナエワにも劣らぬ実力を身につけてきた。リオ五輪の金メダルにもっとも近い選手と言えるだろう。

世界のトップに躍り出たアジア選手たち

韓国のソン・ヨンジェは、「アジア人には不利」と言われてきた新体操にアジア旋風を起こしている 【Getty Images】

 今大会で2位に入ったのは、マルガリータ・マムーン(ロシア)。昨年の世界選手権では、ミスもあり6位だったが、今年はジャンプアップしての銀メダル獲得。同胞であるクドリャフツェワの対抗馬に躍り出た。マムーンは、難度も手具操作も正確性ではややクドリャフツェワには劣るが、その雰囲気のある演技には惹きつけるものがある。年齢を重ねていけば、表現ではより魅せることのできる選手に成長していきそうだ。

 表現力では定評のあるアンナ・リザトディノワ(ウクライナ)も回転数の多い安定したピボットを武器に、世界選手権では昨年2位、今年は3位と常にトップ争いに絡んできている。
 しかし、現在のトップ選手たちは、まだ若いせいもあり、ロンドン五輪の女王・カナエワや今でも絶大な人気を誇るアンナ・ベッソノワ(ウクライナ)のようなカリスマ性をもったスター選手はまだいない。

 そこに食い込んできたのが、今大会4位のソン・ヨンジェ(韓国)、5位のデン・センユ(中国)のアジア勢だ。この2人は、ロンドン五輪にも出場している選手で、経験値では現チャンピオンのクドリャフツェワにも負けていない。
 特に、今大会の種目別フープで自身初の世界選手権銅メダルを獲得したヨンジェは、演技のアピール度では、間違いなくトップクラスだ。かつてはスタイルや身体能力の面で、「新体操には不利」と言われていたアジア人でも、世界で勝負できるということを証明した。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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