新体操、新時代の潮流にアジアの躍進 フェアリージャパンは強化策の成果を

椎名桂子

早川、皆川も順位を大きく上げる

個人総合で16位となった早川さくら。前回大会の40位に比べると確実に成長している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本人選手も、ロシアでの長期合宿を行っている早川さくらと皆川夏穂(ともにイオン)が、今大会ではそろって決勝(予選上位24名)に進出。早川が16位、皆川が23位という結果を残した。上位の壁はまだ厚いと言わざるを得ないが、昨年の世界選手権(ウクライナ・キエフ)では、早川が40位、皆川が36位だったことを思えば、確実に成長はしていると言えるだろう。

 しかし、同じアジア人選手でも、一歩先をいっているヨンジェやデンと比較すると、「ミスなく演技をやり切る」という強さ、たくましさにまだ大きな差がある。「できること」のレベルは近づいてきているのだが、それを本番の演技でやり切り、審判や観客に伝えきる力が、日本の選手たちにはまだ足りないように見える。

 これは、一足飛びで手に入れられるものではなく、場数を踏んでいくこと、成功体験を重ねること、自信をつけていくことでのみ得られるものだろう。素材のよさでは、世界でも認知されてきている早川、皆川には、リオ五輪の出場権が懸かった来年の世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)に向けて、さらにレベルアップを図り、飛躍してほしい。その可能性は十分に持った選手たちだ。

ミスの有無で順位が大きく変わる

今大会の団体では8位となったフェアリージャパン。強化の成果は出ているが、満足のいく結果とはならなかった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

『新体操強国・ロシアに学ぶ』という強化策を個人に先んじてとってきた日本団体代表「フェアリージャパン」は、今大会は団体総合(2種目合計)8位で入賞を果たした。しかし、この8位は、決して喜べるものではなかった。今シーズンはワールドカップでのメダル獲得もあり、昨年の世界選手権での成績(団体総合8位)を上回ることが期待されていたからだ。

 しかし、現在の新体操では、どんなに強いチームでもミスなく演技することは至難の技。現に今大会でも大本命と思われていたロシアが、クラブ10では落下、場外などのミスを犯し11位に沈むという波乱があった。ボール&リボンで挽回したものの、総合4位でメダルを逃し、ロシアにとっては屈辱だったに違いない。

 一方で、1996年以来優勝から遠ざかっていたブルガリアが、2種目とも3位という浮き沈みのない強さを見せて優勝。昨年の世界選手権では17位だったイスラエルもミスのない安定した演技で一気に5位まで順位を上げた。昨年15位だったウクライナも今回はミスを最小限に抑え、7位と日本を上回る成績をあげた。それだけ、ミスの有無が順位に直結してくるのだ。

日本代表に足りないもの

 ロシアの指導を受けるという強化策は今のところ成果をあげている。一時期は遥かかなたに見えた「世界」は確実に近くなった。しかし、本当に世界の舞台で対等に戦い、勝ち抜いていくために、今の日本代表選手たちにもっとも必要なのは、「精神的なタフさ」かもしれない。

 現在の代表選手の選抜方法では、国内の競争にはあまりさらされることがない。その方法で一定の成果は得られているので、それが間違っているわけではないと思うが、もう一歩「タフ」になりきれない原因の一端がそこにある可能性も否定できない。
 ときには国内の大会に出場し、代表の名に恥じない演技をし、成績をとらなければいけないというプレッシャーを経験することも、本番強さを身につけるためには有益ではないだろうか。

 リオ五輪まで2年を切った。五輪の出場権を懸けた来年の世界選手権までも1年しかない。初代のフェアリージャパンが誕生したのが05年、この10年間の強化策が良い結実を迎えるために、できる限りの方策をとりながら向上し続けてほしい。そして、来年の世界選手権とリオ五輪では、ヨンジェやデンとともに、アジア旋風を巻き起こしてもらいたい。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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