田中将大“魔球”に頼らない投球 復帰戦で示した新スタイルの可能性

杉浦大介

威風堂々、故障以前と変わらぬ安定感

75日ぶりの復帰登板で13勝目を挙げた田中。6回途中5安打1失点と好投し、故障前と変わらぬ安定感を見せた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 盛大なオベーションを浴びてヤンキースタジアムのマウンドを降りる途中、田中将大は帽子に手をあててファンに応える仕草を見せた。

 そのポーズが控えめだったのは、6回一死で降板することに満足ではなかったからか。それとも、米国的な儀式にまだ慣れていないからか。しかし、その瞬間を除けば、現地時間9月21日(日本時間22日。以下、すべて現地時間)の復帰登板でぎこちない部分はひとつもなかった。

「久しぶりでしたけど、全体的にはなかなか良かったんじゃないかと思います」
 試合後に本人もそう語った通り、7月8日以来となるメジャーのマウンドで25歳のエースは故障以前と変わらぬ安定感を見せつけた。

 右肘靭帯の部分断裂からのカムバック戦となったブルージェイズ戦で、5回1/3を投げて5安打1失点、1死球。70球中48球がストライクと制球の良さは変わらず、3ボールまでいったのも一度だけ。久々とは思えぬ投球でチームを5−2の勝利に導き、個人としても13勝目(4敗、防御率2.47)を挙げた。

「マック(ブライアン・マキャン捕手)に『田中の持ち球の威力は同じか?』と尋ね続けたけど、『イエス』という答えだった。とても勇気づけられたよ」
 ジョー・ジラルディ監督もそう述べて、内容の良さに顔をほころばせた。

 その直後、「今日の投球を見て、田中が今季を通じて元気でいてくれれば、とあらためて思わなかったか?」という類いの質問が続けざまに地元メディアから飛んだのも印象的だった。2年連続プレーオフ逸目前のチームの指揮官には酷な質問で、「そんなふうに考えたことはなかった」とジラルディは口を濁した。しかし、威風堂々としたエースの安定ぶりを見て、“失われた2カ月間”に思いをはせたファン、関係者は実際に多かったに違いない。

スプリッター少なく、カーブとシンカー中心

 田中の投球に話を戻すと、故障離脱前と1つだけ違う点があったとすれば、この日は得意のスプリッターが少なめで、カーブ、シンカーが多かったことである。
 特に大きなタテの変化球は効果的で、70球中11球がカーブ。中でも5回表に対した3人の打者の初球にすべて70マイル(約110キロ)台のカーブを投げ、簡単に3者凡退に抑えたことは象徴的だった。

 今回の試合前、“魔球”スプリッターの使い方が最大の注目点だと感じた。離脱前まではスプリッターが全投球の25%を占めたが、右肘靭帯を痛めた後で、肘への負担が大きいとされる球種を多投するのはリスキーに思えた。案の定、復帰戦ではスプリッターも要所で使ってはいたが、普段以上に緩急で勝負しようとする姿が目立った。

 低めに丁寧に投げ込む点は同じでも、配球という意味ではモデルチェンジを感じさせたカーブ、シンカー中心のスタイル。そのコンビネーションでの組み立てこそが、今後の基本となっていくのだろうか……?

 もっとも、本人は「カーブがすごく良かったから増えたんだと思います」とだけ語り、新スタイルへの移行をやんわりと否定した。

「カーブで初球からストライクが投げられれば、早いカウントでアウトが取れる。打者の目先も変えられる。スカウティングリポートからゲームプランを用意しても、調子が良い球種が見つかれば、それを使っていくものなんだ」
 マキャン捕手に確認してもそんな答えだったのだから、田中のコメントは単なる煙幕ではなかったに違いない。ただそれでも、より多彩だったこの日のピッチングが、今後へのヒントになることは間違いないだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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