田中将大“魔球”に頼らない投球 復帰戦で示した新スタイルの可能性

杉浦大介

多くの球種を操るかつてのヒーローと同様

ジーターは田中をかつての英雄コーンに例える。スプリッターに頼らずとも、複数の球種を操る投球に、磨きをかけられるか 【Getty Images】

「多くの球種を持っていて、そのすべてをカウントに関係なく自信を持って投げ込んでくるという意味で、田中はデビッド・コーンに似ている。コーンもまたどんな球種でもストライクが取れる投手だったからね。そして、彼もまた“自分がやってやる”という強烈な意思の強さを持った投手だった」

 復帰戦での田中の投球を見ながら、今年6月ごろにデレク・ジーターがそう話してくれたのが頭によみがえった。

 1980〜90年代に全盛期を過ごしたコーンは、メジャー通算194勝を挙げた本格派右腕。ヤンキース時代の99年に完全試合を達成し、通算3度(個人としては4度)の世界一に貢献して地元のヒーロー的な存在になった。そのコーンもまた、ジーターの言葉通り、速球、カーブ、スライダー、スプリッターなど田中同様に多くの球種を操る投手でもあった。

未来への答えが見えてくるのは?

「スプリッターは田中を一段上のレベルに押し上げる武器。それがなくても彼は“グッド”なピッチャーだが、“グレート”ではなくなってしまう」

 ア・リーグ某チームのスカウトのそんな言葉には、恐らく真実が含まれているのだろう。ただ、往年のコーン同様、複数の球種をいつでも投げられる器用さを持った田中なら、スプリッターへの依存度を多少下げても打者を打ち取るすべを見つけられるのではないか。復帰戦でブルージェイズ打線をケムに巻いた姿の中に、そのポテンシャルを垣間見た気がした。

 スプリッターの多投がケガの原因だったのかどうかは誰にも分からないが、よりバランスの良い配球が、健康、能力の両面で選手寿命の延長につながるのは事実に違いない。この日のようにカーブ、シンカーを勝負球のスプリッターとよりうまく融合させられれば、投手としてさらにスケールアップした姿を見せることだって不可能ではないかもしれない。

 未来への答えが見えてくるのは、復帰後2度目の登板が予定される27日のレッドソックス戦か。いや、やはり来年以降となるのだろう。

 とりあえず、今は久々のメジャーマウンド後に田中の肘に何の異常もないことを願いたいところだ。エースが新境地を示した上で好投し、ジーターも2安打を放って完勝した9月21日は、ヤンキースファンに久々に笑顔が戻った1日だった。それだけに、来季以降に向けて、ニューヨークの人々は今では田中の完全復活をこれまで以上に願っているに違いない。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント