復帰登板で見える田中将大の未来像 “凄い投手”か否かを見極める魔球の割合

杉浦大介

スプリットの使い方は変わるのか?

離脱前の田中の投球の約25%を占めていた魔球・スプリット。復帰登板ではその割合も注目ポイントになりそうだ 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 近年ではヨハン・サンタナのチェンジアップ、ブラッド・リッジのスライダー、あるいはマリアーノ・リベラのカッターのように、独特の軌道を描くがゆえに、「慣れても打てない」魔球はメジャーにも存在してきた。

 田中のスプリッターがそれほどの決め球だったとしたら、ア・リーグ東地区の勢力地図は変わりかねない。そこまででなくとも、近いレベルだったとすれば、ヤンキースの巨額投資もある程度は正当化される。 

 開幕前の3月に、筆者はそう記した。蓋を開けてみれば、実に1/4の割合で投げ続け、その球種は6月17日の時点で11勝1敗、防御率1.99という好成績を残す最大の原動力になった。だとすれば、彼のスプリッターは“魔球”に近かったのだろう。

 しかし、一般的に腕に負担がかかるとされる球種の投げ過ぎに対する懸念は常にささやかれ、結果的に田中はシーズン半ばで離脱するに至った。もちろん肘の故障の原因がスプリッターだったのかどうかは知る由もないが、それでも今後の方向性には興味をそそられる。本人が言及した通りにフォームを修正し、今まで通りの頻度で“魔球”を投げ続けるのか。それとも、何らかの変化を施し、具体的にはスプリッターの数を減らすことになるのか。

2015年の田中将大の姿がうっすら見える

「確かに的を射た疑問だね。スプリッターを多用することに対して、今後もどれだけ自信が持てるかが完全復活の鍵になるのだろう」

 筆者が思っていることを話すと、レミア記者もそう納得した。そして、某MLBチームのベテランスカウトに意見を求めても、こんな答えが返ってきた。

「トミー・ジョン手術を受けた投手は、スプリッターから距離を置こうとするのが通常だ。投げる割合を減らしたとして、センスの良い田中なら他の持ち球を使って好投できるだろう。ただ、彼を“特別な投手”にしていたのはやはりスプリッターだった。スプリッターは決め球であるだけでなく、彼はそれをストライクを稼ぐためにも使える数少ない投手でもあった。大抵の投手はスプリッターはボールゾーンに落とし、空振りを取るためだけに使う。しかし、彼はどんなカウントからでも使うことができて、必要に応じてストライクも稼げた。スプリッターは彼を一段上のレベルに押し上げる武器だった。それがなかったとしても彼は“グッド”なピッチャーだが、“グレート”ではなくなってしまう」

 田中の場合は、結局は手術を受けたわけではない。メジャーでのわずか約3カ月間で、精神面まで含めた総合力の高さも印象づけた。それでも、スプリッターこそが苦境時に頼るべき生命線だったことは事実だけに、今後の方向性はそのメジャーキャリアを少なからず影響を与えかねない。

 2カ月以上にも及ぶブランクの果てに、ヤンキースタジアムのマウンドに立つのは、単なる“好投手”か、あるいは元通りの“凄いピッチャー”なのか。

 もちろん復帰戦はあくまで試運転だけに、ここでの結果に過剰反応するべきではないのだろう。ただ、そこでの配球の組み立てから、2015年以降の田中の姿がうっすらと見えてくるはずである。そういった意味でも、21日の投球内容にはより大きな注目が必要だと言っていい。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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