捕手の矜持を貫いた里崎智也の野球人生、満身創痍の体……決断した現役引退
里崎不在の大きさが分かった今季
5月7日のオリックス戦(京セラドーム)では左ヒザの痛みをおしてチームを勝利に導いた。その日をラストに長期欠場を余儀なくされた 【写真=高塩隆】
長年培われてきた巧みなリードは他球団も警戒する。里崎が戦線離脱後、出る投手、出る投手が打たれて大敗を喫した試合がある。その試合を視察していたパ・リーグのあるスコアラーは言った。
「里崎がいないのが痛いね。ああいう状況になると、投手は誰が出て行っても同じ。捕手がいろいろな配球を考えても、なぜか打者はタイミングが合ってしまう。発想の転換ではないが、緩いボールを何球も続けるようなことをしないと、打開できない。今のロッテでそれができるのは彼だけ」
里崎の抜けた穴の大きさが分かった試合だった。
ベテランの領域に入った現在も配球は難しいと悩む。「僕のサインが絶対ではない。若手、ベテランに関係なく、違うと思ったら首を振ってくれて構わない。その場面で投手がどういう考えをしているのか分かるし、それは次回以降にも生きてくる」と話す。
だが、自分のことしか考えていないような場合は、厳しい言葉で叱責することも。それで若手から疎まれることもあるが、「チームが勝てればそれでいい」との根幹に揺ぎはない。
決意した引退「悔いは全くない」
プロ16年目、38歳になった今季は近年では最少の試合数にとどまっている。12年に四国アイランドリーグ・愛媛を最後に引退した橋本は「里崎には1年でも長く野球をやってほしい」とエールを送っていたが、9月11日、ついに現役引退を決断した。
里崎は11日、球団を通して「今季限りでの現役引退を決断いたしました。マリーンズで日本一に2度、WBCにて日本代表として世界一になることもできました。自分の野球人生を振り返って本当に満足しています。悔いは全くありません」とこれまでの野球人生を振り返り、「16年間、本当にありがとうございました」と感謝の言葉で結んだ。
チームの功労者がまた一人、静かにユニホームを脱ぐ。
(文=石川悟)