バルサが求める新たなアイデンティティー 大幅な世代交代に踏み出したL・エンリケ

数字上は理想的なシーズンスタート

バルセロナはリーガ開幕2連勝と理想的なスタートを切った 【写真:ロイター/アフロ】

 効率性について論じるのであれば、現時点でクレ(バルセロナファンの愛称)たちに言うべきことはあまりない。2戦2勝の勝ち点6を手にしている数字だけを見れば、バルセロナは理想的なシーズンのスタートを切ったと言えるだろう。

 同じく数字だけを見れば、開幕戦で2ゴールを挙げ、エル・マドリガル(ビジャレアルのホームスタジアム)のビジャレアル戦(1−0)でもサンドロ・ラミレスの決勝点をアシストしたリオネル・メッシも、ワールドカップ(W杯)決勝で敗れたショックから回復した印象を与える。

 しかし、バルセロナのOBである新監督のルイス・エンリケには取り組まなければならない仕事がまだ山ほど残っている。

 ヘラルド・マルティーノが指揮した昨季を主要タイトル無冠で終えたことで、バルセロナはとうとう大幅な世代交代に踏み切ることを決断した。カルレス・プジョルは引退し、ビクトル・バルデスはクラブを去り、シャビ・エルナンデスはベンチ要員となった。そして主役の座はジェラール・ピケ、アンドレス・イニエスタら中堅世代へと移り、メッシの影響力はさらに大きくなった。

 それがピッチ上のプレーに反映されているかと言えば、現状はそうでもない。今季もバルセロナのプレスには継続性がなく、エル・マドリガルでのビジャレアル戦がそうだったように、時に自ら守備ラインを下げてライバルに自陣への侵入を許すこともある。

失われたままのダイナミズム

大幅な世代交代に踏み切ったL・エンリケ監督。取り組まければならない仕事はまだ多い 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 攻撃時にメッシが十分なサポートを受けられていない点も昨季と変わっていない。メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールが構成する夢のトリオも、スアレスの処分が解け、ネイマールがW杯で負ったけがから完全に回復するまでは見ることができない。現状L・エンリケに起用されているのは、カンテラの至宝であるムニル・エル・ハダディ、2010−11シーズン以前の黄金期とはほど遠い状態にあるペドロ・ロドリゲスらだ。

 今もバルセロナはゲームをコントロールしてはいるが、そのプレーからはジョゼップ・グアルディオラが指揮していた2008〜12年に見られたダイナミズムやハイテンポなリズムは失われたままだ。

 プレースピードが落ち、スペースではなく足元から足元へと確実にパスをつなぐようになったことで、守備時にDFラインの裏を突かれてまともにカウンターを食らう危険性は少なくなったかもしれない。それでもビジャレアル戦では相手に計6度のゴールチャンスを与えている。どれも自陣ペナルティーエリア内でのマークミスが原因だった。

 この点については、出場停止だったハビエル・マスチェラーノの不在がもたらす影響を検証した上で、新加入のトーマス・フェルマーレン、ジェレミー・マテューにピケとマルク・バルトラを含めたセンターバックの人選について検討する必要がある。それは新加入のドゥグラスがダニエウ・アウベス、マルティン・モントヤの定位置争いに加わった右サイドバックも同じだ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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