バルサが求める新たなアイデンティティー 大幅な世代交代に踏み出したL・エンリケ

重要なのはメッシへのサポート

L・エンリケの新システムにおいて、メッシはどのように起用されるのか 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 バルセロナが歩むべき再建の道のりは長い。中盤のキーマンであるイニエスタが昨季からけががちでベストコンディションを保てていないことも考慮すべきだろう。イニエスタが万全のフィジカルコンディションを取り戻し、イバン・ラキティッチ、スアレス、メッシ、ネイマールらをそろって起用できるようになれば、L・エンリケはベストのシステムを見いだした上で彼らをローテーション起用していかなければならなくなる。

 だが現時点で彼が抱いているアイデアを正確に計り知ることは難しい。メッシは1つのポジションにとどまることなくピッチ上をさまよっているため、彼がL・エンリケの新システムにおいてどの位置で起用されているのかという疑問は深まるばかりだ。ペドロとムニルの後方、トップ下の位置にいるかと思えば、フランク・ライカールト時代のように右サイドに開いた状態から自由に中央に入ってくる時もある。

 だが彼のプレーポジションより重要なのは、チームとして攻撃時に彼をサポートできるシステムを見いだすことだ。

シャビの動向と離脱選手の復帰が鍵

開幕戦は出場機会なしと、ベンチにいる時間が長くなってきたシャビ。バルセロナらしいボール回しを取り戻すためには必要不可欠だが 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 これまでバルセロナでメッシが最も輝いたのは、グアルディオラの指揮下で4−3−3のファルソヌエベ(偽9番)としてプレーしている時だった。このシステムではセルヒオ・ブスケツが中盤の底、その前にイニエスタとシャビが並び、メッシは相手ゴールに非常に近い位置でプレーしていた。

 そのためメッシは攻撃時に長い距離を走る必要がなく、何より攻撃を組み立てる際に多くの選手がメッシの周囲に集まっていた。だが現在はそのような形はほとんど見られなくなっている。少なくともネイマールとスアレスがコンスタントにプレーできるようになるまでは、そのような状況を作り出すのは難しいだろう。

 12月にも移籍してしまう可能性のあるシャビが今季どれくらいプレーできるのかも、鍵を握る要素となりそうだ。シャビがいる時のバルセロナはボール回しに明確な意図が生まれる。より長いパス、よりスペースを使ってボールを動かすことで、皆がプレーしやすくなるのだ。だがシャビがいない時のバルセロナはライバルにとって予測しやすいプレーを繰り返すばかりで、メッシの個人能力への依存度が高まるチームとなってしまう。

 今季のバルセロナがどうなるのかを検証するには、現状では不確定な要素や不在の選手が多すぎる。分かっているのは彼らが結果だけでなく、そのプレーに新たなアイデンティティーを探し求めていることだけだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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