世界一を狙えるまでになった全日本女子 銀メダルに終わったワールドGPでの収穫
結果が示す全日本女子の現在地
ワールドGPで初の準優勝を果たした全日本女子 【坂本清】
「オリンピック決勝の練習だと思うと、考えただけで鳥肌が立ちます」
金メダルを懸けて、世界ランキング1位の女王、ブラジルと対戦する。
宮下だけでなく、世界一になるために、新たな戦術を掲げてワールドグランプリ(GP)ファイナルに臨んだ全日本女子にとって待望の、大事な一戦。
結果は0−3、ブラジルの強さに屈することとなったが、試合後、木村沙織の表情は晴れやかだった。
「ブラジルはやっぱり世界一の相手だな、と。サーブで崩しても全員で点数を取ってくるし、なかなか自分たちが思うような展開に持って行けなかったところが敗因だと思います。それでも今日、ブラジルと金メダルを懸けた戦いができて、いい勉強になりました」
銀メダルを獲得した、という結果よりも、新たな戦術で臨んだ大会で、これからにつながる課題を、世界一のブラジルから突きつけられた。
それこそが、最も大きな今大会の収穫だった。
ミドルからの打数が少ない。
国際大会が終わるたび、眞鍋政義監督は決まってそう口にした。2012年のロンドン五輪の中国戦に象徴されるように、木村、江畑幸子といった得点力のあるウィングスパイカーがいることが、日本の強みでもある。だがその一方で、他のポジションに目を向けると決定率、効果率はおろか、そもそもの攻撃本数が圧倒的に少ない。特にミドル、コート中央からの本数が極端に少なかった。
例えば昨年、宮下が初めて日本の司令塔としてトスを上げたワールドGPファイナルの中国戦。フルセットの末に敗れたこの試合で、江畑は65本、木村が49本のスパイクを打っているのに対し、ミドルの大竹里歩は10本、岩坂名奈は5本。2人の打数を足してもわずか15本しかない。
いくら攻撃力の高いアタッカーとはいえ、相手のブロッカーからすれば「ここしかない」と思えば、当然ながらブロックでマークし、抜けたボールはレシーバーが拾うべく、“木村シフト”や“江畑シフト”を敷いてくる。
ロンドンからリオへ。世界一を目指すうえで、絶対に克服しなければならない積年の課題が、偏った攻撃パターンの打破、特にミドルラインからの攻撃力向上だった。
注目された新戦術“ハイブリッド6”
攻撃力向上を目指し、新戦術“ハイブリッド6”で一定の結果を残した眞鍋監督 【坂本清】
木村はこう言う。
「新戦術に取り組み始めてからは、誰が最多得点で何点獲った、ということよりも、チームの全員がバランス良く、みんなが同じぐらいの本数を打って、点を獲る。それがチームとしての共通認識になりました」
相手のブロッカーをかく乱させ、枚数を減らすために、今まではセッターから供給するトスのスピードを上げることのほうが重視されてきた。しかし、トス自体を速くしなくても、複数のアタッカーがさまざまな場所から同時に攻撃へ入れば、相手のブロッカーはどこから攻撃が仕掛けられるのか分からず、動きがワンテンポ遅くなる。
実際にGPファイナルのトルコ戦、中国戦(共に3−0)では、チャンスボールからの攻撃ではなかったにも関わらず、相手ブロッカーがミドルの大野果奈や、石井優希のバックアタックを警戒する中、1枚、1枚半になったブロックの空いたスペースへ木村が高さのあるトスを思い切り打ち、得点に結びつけるシーンが何度も見られた。
もともとバックアタックはそれほど得意ではないという石井も「新戦術では、自分がディグ(スパイクレシーブ)をした後でも攻撃に入るようにしていた」と言うように、レシーブをして終わり、ではなく、全体が次の攻撃に備えて動き出す意識を共有する。