世界一を狙えるまでになった全日本女子 銀メダルに終わったワールドGPでの収穫

田中夕子

攻撃力向上に取り組んだ成果

全員で攻撃をする“ハイブリッド6”では、相手のディフェンスシステムをかく乱させることに成功した 【坂本清】

 よりスムーズに攻撃へと転じるために、1本目のパスから見直した。

 新戦術ではセッターの宮下がセンターブロックに跳ぶため、左右に移動してブロックをした後、すぐさま振り向き、ボールの下に入ってトスを上げなければならない。ある程度決まったポジションでブロックに跳ぶサイドよりも、移動を伴うセンターブロックは着地後の体勢が崩れることも多い。そのため、ディグやチャンスボールはピンポイントに返すのではなく、コート中央にできるだけ高く上げて、宮下がトスを上げる間をつくる。
 それと同時に、その間を利用してアタッカーも助走に入り、攻撃の準備をする。

 ブロックは最大でも3枚しかないのだから、そこに対して4枚、さらには5枚の攻撃を複数の場所から同時に仕掛ければ、得点のチャンスは広がる。実際にピンチサーバーとして投入された石田が、自らのサーブで崩した後、そのままバックアタックの助走に入ったり、バックセンターの石井の横から相手ブロックのスペースを目がけてバックライトの木村が助走に入るなど、攻撃に対する積極的な姿勢が幾度となく見られた。

 木村は言う。
「ポイントを獲れる選手が多くコートに入っているので、自分も(助走に)入ってセッターの選択肢を増やすことを今まで以上に意識しています。例え自分にトスが上がってこなくても、その姿勢を大事にしなきゃ、と思うんです」

 トルコ戦のスパイク本数は石井が33本、木村が29本、長岡が23本、大野、新鍋がそれぞれ16本。偏ることなく、全員で攻撃をした結果、トルコのディフェンスシステムをかく乱させ、眞鍋監督も「今季一番の試合」と称した快勝は、この戦術で戦う、と決めて以後、共通意識のもとで攻撃力向上に徹底して取り組んできたこれまでの成果だった。

ブラジルに突きつけられた課題

金メダルを懸けて女王ブラジルと対戦し、ストレート負けを喫した全日本女子 【坂本清】

 新戦術で臨んだワールドGPで2位。母国開催であることはさておき、大会史上初の表彰台であり、何より、数年前までは木村が「対戦しながら、頭のどこかで『勝てないだろうな』と常に格上の相手として見ていた」と言うブラジルを相手に、金メダルをかけて戦う経験を積めたことは、2年後のリオデジャネイロ五輪に向け、何より大きい財産になる。

 ブラジルへの力負けを口にする日本選手が多い中、ブラジルのジョゼ・ギマラエス監督も「日本は間違いなく強豪国の1つであり、世界から一目置かれる存在、警戒されるチームになっている」と称え、新戦術に対しても「今大会でいい成績を残したということは、いい戦術だということ」と評価した。

 とはいえ、一部分の結果だけを見て、ただ「よかった」「強くなった」と称賛するだけでは、次への道が開かれない。勝っている時は見えなかった課題が、これからより大きなゆがみとなり、脆さにつながる可能性も十分にある。

 ブラジル戦でも、これまでは1枚、1枚半で打てていたバックアタックに対しても始めから3枚のブロックがつき、抜けたコースにもレシーバーがいて、簡単に攻撃を切り返された。加えて、勝利した試合の中でも、リベロの佐野優子がディグでカバーしていたため、さほど目立たなかったかもしれないが、ラリー中にブロックが逆をつかれ、簡単にノーマークで打たせてしまったことも、一度や二度ではなかった。

 未完成の新戦術を、完成された武器とするために、これから取り組むべきことは数多くある。そして、その過程こそが目指すべき頂点へとつながる道であるのは間違いない。

 木村は言う。
「銅メダルが続いていた中で1つ、いい色のメダルが取れたのは良かったけれど、やっぱり1番いい色のメダルが欲しいので、これからみんなで努力してつかみに行きたいです」

 世界一は、決して遠いところにある夢ではない。胸に光る銀メダルも、次への糧として。アウェーのイタリアで、24か国が競う、世界選手権(9月23日〜10月12日)の開幕は間もなくだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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