柿谷移籍のバーゼルは「群を抜いた存在」 日本でも注目集めるスイスリーグとは?

中野吉之伴

現在5連覇中のバーゼル。スイスリーグでは「群を抜いた存在」として頂点に君臨する 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会では決勝トーナメント1回戦で、後に決勝まで進出するアルゼンチンをあと少しのところまで苦しめたスイス代表(延長後半13分にリオネル・メッシのアシストからアンヘル・ディ・マリアが決勝弾)。ジェルダン・シャキリ、グラニット・ジャカ、ファビアン・シェアら、最近多くのタレントがこの国から生まれているが、そのベースであるスイスリーグとはどんなところだろうか。日本代表のFW柿谷曜一朗がFCバーゼルへと移籍したことで、日本でも注目を集めているスイス「ライファイゼン・スーパーリーグ」をご紹介したい。

昨季はCLでチェルシーに2勝

すでに練習に合流している柿谷(写真)も「バーゼルのサッカーは魅力的」と語る 【Getty Images】

 スイスリーグは全10チームによる4回戦総当たりで年間36試合を戦う。1年に4度も対戦するため、対戦相手の綿密な分析と対策が行われる。通算優勝回数ではグラスホッパー・チューリッヒが27回で最多だが、ここ10年間はFCバーゼルが5連覇(現在進行中)を含む7回の優勝と完全な一人勝ち状態。通算でも2位タイの17回を記録している。

 そのため今季一番の注目はやはり、「バーゼル6連覇なるか」ということになる。『バーディッシュツァイトゥング』紙のバーゼル担当ヴィンフリート・ディーチェ記者に話を聞いたところ、「バーゼルはスイスではもはや別格の存在だ。欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも結果を残しているし、若手の成長もある。金銭面でも群を抜いているしね」とその特別な立ち位置を説明してくれた。地元紙『バスラーツァイトゥング』は「ライバルなど存在せず、最低でも勝ち点10差をつけて優勝する」と豪語。しかしそれが許されるくらいの力関係があるのも事実だ。入団会見で柿谷も「バーゼルのサッカーは魅力的だったし、このチームの一員になれることが自分にとってプラスになると思った。これだけ常に優勝できるチームというのは、一体どういうチームなのかとすごく興味がありました」と驚きを口にしていた。

 とはいえ、柿谷自身が「スイスリーグのレベルが低いとは思っていない」と強調したように、他のクラブが弱いわけではない。他クラブにもいい選手や監督がいる。ただデイーチェ記者の言うとおり、スイスにおける今のバーゼルは「群を抜いた」存在なのだ。昨シーズン、バーゼルの年間売上高は8800万スイスフラン(約98億円)。これは2位ヤングボーイズ・ベルンの約2倍、昨季9位FCアーラウの約17倍に当たる額だ。これだけクラブとしての基礎体力・単純な戦力差があれば、優勝は義務と考えられてしまうのも当然だろう。事実、前監督ムラト・ヤキンは就任2年でリーグ2連覇を達成。また決勝トーナメント進出はならなかったとはいえ、昨年のCLグループリーグではチェルシーに2勝という素晴らしい結果を残した。

5連覇にも満足せず、新しい風を求める

 しかし会長のベルンハルト・ホイスラーは危機感を持っていた。5年連続優勝は素晴らしいが、このままでは慣れ合いが生じ、クラブとしての成長は止まってしまう。だからこそ新しい血、新しい風を求めた。そのためヤキンとの契約延長をせず、まだ指揮官として確固たる結果を出していないパウロ・ソウザをあえて新監督として迎えた。ホイスラーは「あれ以上一緒にやっていくことはできなかった。そうしなければならないという認識に達していたんだ。あの決断を『非人道的だ』と非難するファンの気持ちも理解できるが、われわれにとっては次への歩みこそが重要だった」と振り返っている。

 そうした会長の期待とともにやってきたソウザ。監督としてはビッグクラブ初挑戦となるまだ若手の1人だが、これまでの仕事ぶりへの評価は非常に高いものがあった。イングランド2部リーグのレスター・シティではわずか3カ月で職を失ったが、元スイス代表ブルーノ・ベルナーは「彼にはとてもはっきりとしたビジョンがあり、戦術的なことを本当にたくさん教えてもらった。サッカーを隅々までよく知っていて、どんな挑戦にも立ち向かい、成功に向けて努力を惜しまない人だ。それに彼は人をとても大切にする人なんだ」と『バスラーツァイトゥング』のインタビューで称賛していた。

 今季開幕のアーラウ戦では2−1と勝利は収めたが、直前に試用した3バックを導入するなどまだ試行錯誤中という印象を与えていた。元スイスU−21代表DFタウラント・ジャカが「監督には確かな哲学がある。これまで以上に攻撃的なサッカーをしようとしている」と話すように、選手はソウザを支持しているものの、主力の多くがW杯出場で合流が遅れており、チーム作りが順調というわけではない。それでも、スポーツディレクターのゲオルグ・ハイツが「新しい監督と選手たち。彼らはまず自分たちの居場所を見つけなければならない。そしてそのプロセスは今日・明日ででき上がるものではない」と話すように、時間をかけて作りだそうとしている。

1/2ページ

著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント