柿谷移籍のバーゼルは「群を抜いた存在」 日本でも注目集めるスイスリーグとは?

中野吉之伴

切り札として期待される久保裕也

開幕戦で早速ゴールを決めるなど、ヤングボーイズに所属する久保(写真)は、切り札として期待されている 【Getty Images】

 スイスリーグの観客動員は決して多くはなく、満員になることも少ない。年間平均観客数では、バーゼルがここでもダントツの約27000人で、全体の平均が1万人といったところ。前述のアーラウvs.バーゼルではドイツ4部リーグ相当の3644人と寂しい数字だった。すべてのスタジアムがモダンで快適なわけではなく、屋根もない立ち見席ばかりのスタジアムも普通にある。しかしその分、素朴で味わいがあるとも言える。友達とスタジアムに足を運び、ポケットから取り出したコインで当日券を買うファン。ピッチ上に誰もが息をのむ足技の使い手がいるわけでもない。しかし限界まで戦い、走り続ける選手がいる。その姿に大きな声援が飛ぶ。数は少ないかもしれないが、どこのファンからもクラブへの深い愛情が感じられる。だからだろうか、激しい応援の中にもどこか優しさが漂っている気がするのだ。

 バーゼルが強いからと簡単に優勝をプレゼントするつもりはどのクラブにもない。どこも全力で試合に挑む。その中で特にバーゼルと対抗しうる可能性があるのは昨季2位のグラスホッパーと3位のヤングボーイズ。グラスホッパーは得点王のシュケルツェン・ガシィをバーゼルに奪われてしまったが、それでも経験豊富なミヒャエル・スキッペ監督は卓越した分析力とそれを練習に落とし込む腕を持っている。入念な準備で、バーゼルを苦しめる戦いを見せるはずだ。選手では元ACミランのFWアレクサンダー・メルケルに期待が高まる。

 一方、久保裕也所属のヤングボーイズは、昨シーズン3位という好成績の後でも監督のウリ・フォルテは「重要なのはタイトルではなく、自分たちの仕事ぶりだ」と語っていたが、2012年にスポーツディレクターのフレディ・ビッケルが「3年以内にタイトルを獲る」と宣言しており、「昨季以上の成績を」と意気込んでいる。

 久保はそのチームで切り札として期待されている選手だ。フォルテも「運動量が多く、すばしっこい。良いシュートを持っていて、何より戦術理解が素晴らしい」と褒めている。守備にまだ課題があると指摘されているが、すでにスイスリーグの中で最も将来性のある選手のひとりとして注目されている。また『ベルナーツァイトゥング』紙によると地元記者のインタビューには既にドイツ語で答えているという。今季開幕戦では先発フル出場を果たし、早速同点弾となるゴールも決めた(結果は2−2)。主力としての活躍に期待したい。

 王者としての慢心を一切見せず、さらなる高みを目指すために、あえて完成していたパズルを崩したバーゼルとその隙を逃さんとする他クラブという図式。ひょっとすると今季のスイスリーグは非常にスリリングなシーズンになるのかもしれない。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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