高まるオランダ23人のチームスピリット クルルのPKストップは必然の結果!?

中田徹

万全だったオランダのコンディション

「クルルは手が一番長く、PKをストップするのに適している」とファン・ハール監督は分析し、見事結果につなげた 【写真:ロイター/アフロ】

 それが当たった。クルルは見事に2本のPKを止めたのだ。決められた2本のPKも、クルルはしっかりコースを読んでいた。チームとして事前スカウトはバッチリだった。また、PK戦専用GKの存在は、ケイラー・ナバス擁するコスタリカの流れも止めた。

 ファン・ハール監督は、119分まで交代枠を1枚余らせた采配をこう振り返る。
「GKにはそれぞれ異なった特徴がある。ティム(・クルル)は手が一番長く、PKをストップするのに適しており、止めるのもうまい。それがうまくいかなかったら、私の交代策は失敗と見なされる。それがフットボールの世界というもの」

 こうして、とうとう今大会のオランダは23人のメンバー中、実に21人がプレーした事になる。大会前、メンバーが乏しく、実力では低いと目されていたオランダは、まさに総力戦で大会を勝ち抜いている。

 3人目の交代をクルルのために余らせた采配は、チームのコンディションが最高だからできた。PK戦を前に、ピッチの上でマッサージを受けていたのはコスタリカの選手だけで、オランダの選手たちは皆、ピッチの上に立って最後の戦いに備えていた。

「試合中、ロン・フラールは膝を腫らしていた。ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ロビン・ファン・ペルシーも力を使い切っていた。交代策は少しトリッキーだった」とファン・ハール監督は明かした。しかし、それ以上にコスタリカの選手の疲弊は明らかだった。

 また、クラース・ヤン・フンテラール投入によって点を強引に奪いに行くサッカーに転換したオランダだったが、120分のうちにゴールが決まっていたらDFヨエル・フェルトマンを投入する準備も終えていた。クルル抜てきの裏には、こうしたファン・ハール監督の並行作業があった。

23人で勝ち取ったベスト4進出

 アリエン・ロッベン、ディルク・カイト、ウェスレイ・スナイデルというベテランたちのスタミナは衰えず、最後の最後まで技術・走力・体力でコスタリカを圧倒していた。クルルの活躍も光ったが、その前の“投資”としてオランダはコンディションでコスタリカに差をつけ、PKの精度をしっかり保っていた。

 6番目以降のキッカー陣が若く、経験不足だったのが懸念されたが、ファン・ペルシー、ロッベン、スナイデル、カイトといった百戦錬磨のキッカーたちが全員決めた。さらに5番目のキッカーとしてフンテラールが控えていた。

 これまでオランダでは「PK戦は運」という声が多かったが、まるで高校サッカーのようなPK戦戦術を用いたファン・ハール監督によって、その考えも改まるかもしれない。

 オランダのチームスピリットは高まっている。まさかクルルがこの日のヒーローになるなんて誰も想像していなかっただろう。今大会、出場機会の無いMFヨルディ・クラシーにだって、もしかしたら第2GKのフォルムにだって残された2試合でピッチに立つ可能性が残っている。これほど23人の力を感じさせるチームは、なかなかそうない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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