W杯の呪縛と戦うハリルホジッチ監督 アルジェリアを率いて3度目の正直を狙う

輝かしい実績もW杯では不運の連続

アルジェリア代表監督のバヒド・ハリルホジッチ。選手、監督として輝かしい実績を持つが、これまでのW杯では不運が続いていた 【写真:ロイター/アフロ】

 いくら熱心なサッカーファンでも、特に若い方たちは、アルジェリアを率いるボスニア人監督のバヒド・ハリルホジッチという名前にピンとこないはずだ。今回のワールドカップ(W杯)ブラジル大会で初めてその名を聞く人も多いだろう。しかし、とても興味深い人物なので、この機会に彼のことを少し知っておいても損はない。

 現在61歳のハリルホジッチは、1970〜80年代にかけてセンターFWとして第一線で活躍し、ゴールを量産した元名選手。旧ユーゴスラビアのベレジュ・モスタルで台頭したあと、フランスのナントで2度もリーグアンの得点王に輝き、もちろん旧ユーゴスラビア代表でもプレーした。監督キャリアも華々しいものである。フランスのリールを1年間で2部からチャンピオンズリーグの舞台まで引き上げると、パリ・サンジェルマンではフランスカップを制覇。モロッコのラジャ・カサブランカ時代にはアフリカ・チャンピオンズリーグでも頂点に立った。

 だが、何より興味深いのはハリルホジッチとW杯との巡り合わせである。それは驚くほど不運の連続だった。

監督と合わず、実力が発揮できなかったスペイン大会

 1982年、ユーゴスラビアはダークホースとしてW杯・スペイン大会に臨んだ。欧州予選では、最終的にその大会で優勝するイタリアを抑えて首位通過を果たしており、彼らの躍進を予想する者も少なくなかった。ハリルホジッチも当時は脂の乗り切った29歳。彼が代表チームの攻撃をけん引するものと思われた。しかし当時の代表監督、ミリャン・ミリャニッチは、ハリルホジッチではなく他のFWをスタメンで起用。ハリルホジッチにはあまり出番が回ってこなかった。スペイン、北アイルランド、ホンジュラスと同組に入ったユーゴスラビアは見せ場を作ることができず、決して難しいグループではなかったが、あえなく1次リーグで敗退。ハリルホジッチにとって初のW杯は、悔しい思い出しか残らなかった。

 もちろんハリルホジッチは、その時の監督の方針に納得できなかった。自分が起用されなかったのは、セルビアやクロアチアの主要クラブでプレーしていなかったせいだと感じ、「私の名前はベオグラードの電光掲示板に入らないほど長かったのさ」と皮肉を交えて当時を振り返る。

わずか1敗で解任、目前で逃した南アフリカ大会

 それから28年後、ハリルホジッチはもっと大きな失意を味わうことになる。コートジボワール代表の監督に就任したハリルホジッチは、ディディエ・ドログバなどを擁して見事に2010年W杯・南アフリカ大会の出場権を獲得した。しかし本大会まで数カ月と迫った10年2月、驚くべきことにハリルホジッチは代表の監督職を解かれたのだ。24試合でわずか1敗という申し分ない成績を残していただけに、ハリルホジッチにとっては寝耳に水だった。確かに、その1敗が10年アフリカネーションズカップ準々決勝のアルジェリア戦(延長戦の末2−3で敗退)だったとはいえ、サッカー協会の判断は正気とは思えなかった。

 ハリルホジッチは当時のことをこのように振り返っている。

「協会の事務局長からファックスが届いたんだ。そこには、アフリカネーションズカップで優勝を逃したため、私との契約を解除するという短いメッセージが書かれていた。24試合で唯一の敗戦だったにもかかわらずだ。本当にショックだった。信じられなかったよ。選手たちも私とW杯に行けなくなったことに肩を落とし、みんな同情してくれた。後に知ったのだが、あの解任劇には政治的な背景があったという。大統領選挙に関係することだったようだ。何より悲しかったのは、協会による解任の伝え方だった。事務局長からのファックス1枚だったからね。屈辱的だった。サッカーは何が起こるか分からないということを改めて痛感した。特にアフリカではね」

 ショックから立ち直れずにいたハリルホジッチは、南アフリカ大会のコートジボワール戦を1試合も見なかったという。これがハリルホジッチにまつわる2つ目のW杯の物語だ。

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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