岡崎慎司、痛感したFWとしての力不足 2試合シュートゼロ…直面した厳しい現実

元川悦子

「自分が点を取る役を任されたと思った」

コロンビア戦で勝利するためには、岡崎の爆発は欠かせない。4年間の進化を示すことができるか 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 ギリシャの守備陣が低いラインを取ってきたこともあり、岡崎が背後に抜け出すスペースはなかなか見いだせなかった。彼は相手を背負って今野泰幸や山口蛍からパスを受け、タメを作って長友佑都や大迫勇也を縦に抜け出させるなど、黒子の動きを精力的にこなしたが、右サイドにいる時のような前への推進力はどうしても感じられない。長友との関係もややギクシャク感が見て取れた。普段やっている右の内田篤人との関係だったら、もう少しスムーズに動けただろう。ギリシャ戦にこの秘策を講じるのであれば、指揮官にはもっと入念な準備をしてほしかった。

 それでも、11対11の時間帯はまだ日本らしい創造性のある攻めは出ていた。状況が大きく変わったのは、前半38分にカツラニスが2枚目のイエローカードで退場してからだ。もともと堅守をモットーとするギリシャは完全に自陣に引いて守り倒す戦術へシフト。時折、繰り出すカウンターでセットプレー以外は貝のようにじっとしているだけになった。こうなると、岡崎は裏への飛び出しをもっと出せなくなる。本人の中でも困惑はあっただろう。

 迎えた後半12分、ザック監督はベンチに置いていた香川を大迫に代えて投入。岡崎を1トップに上げた。この交代場面では大久保が前、岡崎が右に行くのではないかと思われたが、指揮官はドイツで結果を出した男にフィニッシュの期待をかけた。

「自分が点を取る役を任されたと思った」と本人も言うように、岡崎がやるべきことはただ1つ、ゴールだけだった。

繰り返した反省の弁「力不足を感じる」

 この時間帯になると、日本はGK川島永嗣を残して全員が相手陣内に侵入。一方的に攻め込んでいた。内田や長友が2度3度と深い位置までえぐってマイナスのクロスを入れるなど、いい形も作ったが、ギリシャのゴール前の壁は崩れない。後半23分に内田のクロスから大久保が飛び込んだ決定機を逃し、この3分後には長友のクロスから岡崎が粘ったこぼれ球を内田が思い切って打ちにいくも、枠の外。岡崎にピンポイントで合う場面は最後の最後まで訪れず、彼のシュート数はまたしてもゼロに終わった。

「ここ一番での能力を出し切れなかったし、やっぱり苦しい状況で決めてこそのFW。個人的に情けないなという感じ。点を取る部分を任されて、ガッツリ入れなかったことの悔しさは本当に強いですね。この試合は崩しはうまくいっていたと思うし、チームとして我慢して回していたけど、やっぱり最後のところで決めるべき選手が現れないとどうしようもない。シーズン通してじゃなくて、大舞台の2〜3試合で結果を出せる力がなかった。FWとしての能力を出し切れてないし、力不足を感じます」と、試合後のミックスゾーンに現れた岡崎はいつになく厳しい表情で反省の弁を繰り返していた。日本は最終予選のオーストラリア、あるいは昨年10月のセルビア・ベラルーシ遠征で直面した「引いた相手に対する決定力不足」という課題をまたも露呈したわけだが、その責任を彼は非常に重く受け止めた。

 日本戦の直前に行われたウルグアイ対イングランド戦では、プレミアリーグ得点王のルイス・スアレスがすさまじい決定力で数少ないチャンスを確実にモノにしていた。岡崎と同じリーグで戦うドイツのトーマス・ミュラー、クロアチアのオリッチ、マリオ・マンジュキッチらも結果を出していた。世界的な点取り屋は重圧のかかる舞台できっちり仕事をするものなのだ。彼らに肩を並べる実績をドイツで残した岡崎には、それだけのポテンシャルがあったはず。今回は本当に運に見放されたとしか言いようがない状況だ。

指揮官の采配にも不発の一因がある

 ただ、岡崎の1トップというのは、日本代表ではほぼ消えたと思われたオプションだった。米国合宿中に1トップをどうするのかという質問が出た際も、ザック監督は「岡崎は今のポジション(右)に慣れているし、柿谷(曜一朗)、大迫、大久保がセンターFWの位置に入ることになる」と公言していた。そういう扱いをされた岡崎が、いきなり前線に送り込まれ「結果を出してくれ」と言われても、やはり難しいのは確かだ。

 この冬にドイツで話を聞いた時も「もし自分が1トップをやるなら、ずっと続けてやりたい。マインツでも練習からずっとやっているから、僕がどうやって動くかをチームメートも分かる。代表でいきなり入れられたら、周りも自分の動きなんて分からないでしょう。圭佑や真司とだって、横関係と縦関係じゃ全然違うから。そうしてくれれば、4年前よりはずっといいイメージを持ってこのポジションに入れます」と、彼は1トップ再挑戦に少なからず意欲を見せていた。指揮官が腰を据えて岡崎を使い続けていたら、この大一番でゴールを量産していた可能性もある。9番の不発は、ザック采配にも一因があると言わざるを得ないだろう。

 こうした問題点はいくつかあるにせよ、日本がもはやギリギリのところまで追い込まれている事実は変わらない。岡崎が目下、2試合通して1本もシュートを打っていないという厳しい現実とどう向き合うか……。それが苦境脱出の一歩となる。すでにグループリーグ突破を決めているコロンビアがどんな戦い方をしてくるか分からないが、ギリシャ戦を参考に手堅く守ってくることも考えられるだけに、彼自身、そしてチーム全体も何らかの工夫が必要になってくる。

 ザック体制のラストゲームになる可能性も少なくないクイアバの一戦で、岡崎には4年間の進化を示すためにも、本来の鋭さを是が非でも取り戻してほしい。この男が切り込み隊長にならない限り、日本の攻撃にインテンシティー(プレー強度)は生まれない。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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