悪いのは戦術ではなく“コンディション” 育成指導者が見るスペイン初戦の仕上がり

小澤一郎

不安を露呈したワントップと両CB

心身両面のコンディションが不安視される守護神のカシージャス。デル・ボスケ監督はチリ戦でもカシージャスをピッチへ送り出すのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 国内リーグ最終節(優勝のかかったバルセロナ戦)でシーズン3度目となる肉離れを負ったジエゴ・コスタは強行出場したCL決勝でも開始9分で交代し、W杯本大会のメンバー入りが危ぶまれた。最終的には滑り込みでメンバー入りしたものの、オランダ戦のパフォーマンスを見る限りでは、準備期間はコンディション調整に時間を割かれ、チーム戦術の理解や周囲との連係を深める時間はなかったようだ。

 イニエスタ、シルバがフエゴ・インテリオールを仕掛ける時、スペインの1トップには相手CBの出足を止めるための駆け引きやDFラインの裏への飛び出しが求められるが、ジエゴ・コスタは普段アトレティコ・マドリーでやっているようなサイドに流れてボールを受ける動きで孤立するシーンが多かった。

 また、オランダの高速2トップに好き放題やられる格好となったCBのピケも、元々はけが明けでコンディションが懸念されることから初戦の出場が危ぶまれていた。直前のエルサルバドルとの強化試合(2−0)ではハビ・マルティネスとセルヒオ・ラモスのCBコンビだった。しかし、結果的にはビセンテ・デル・ボスケ監督が選択したピケは、体のキレに不安があるのか深いライン取りで相手2トップにギャップを献上、カウンターの餌食となった。もちろん、ロッベンのスピードに対応できず、マーキング、カバーリングの遅さを露呈したセルヒオ・ラモスのコンディションの悪さも目立っていたが、彼についてはフィジカル面以上にメンタル面のコンディションに問題がありそうだ。

最大の懸案事項は守護神の処遇

 そして現時点でラ・ロハ最大の懸案事項は、致命的なミスを連発した守護神イケル・カシージャスの心身両面のコンディションだろう。彼の場合は、コンディションというよりはここ2年クラブでの出場機会が減っていることに起因する試合勘と自信の喪失、年齢から来る衰えの問題なのかもしれないが、果たしてこのタイミングでデル・ボスケ監督が代表では絶対的リーダーであり、守護神のカシージャスを外すことができるかどうか。

 オランダ戦のクロスボール、1対1の対応や足下の技術からして、今のカシージャスはスペインのゴールマウスを守るレベルにはない。カシージャス自身、初戦での敗戦と自身のミスを受けて「ファンに謝りたい」と謝罪したが、ここでデル・ボスケ監督がGKを替える決断を下せば、試合後から繰り返す「敗戦は個人ではなくチーム全体の責任」という主張を覆すことになる。そのため、おそらく次のチリ戦に向けてドラスティックなメンバー変更はしてこないだろう。

 たかが初戦の1試合とはいえ、選手個々のコンディション、パフォーマンスから見るスペインの仕上がりは「万全ではない」というのが疑いようのない結論だ。とはいえ、前回大会同様に負けが初戦であり、残り2試合で巻き返しが可能というのも厳然たる事実である。スペイン国内では屈辱的な敗戦を受けて代表チームを猛烈に批判する向きもあるが、一方で「これまでわれわれに希望をもたらしてくれた彼らならきっとまたやってくれる」という希望や楽観論があるのも事実。そこにスペイン代表が世界を獲った意味を見た気がする。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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