プランデッリの策がはまったイタリア ポゼッションに磨きをかけた新布陣

神尾光臣

イングランドの左サイドを攻略

マルキージオ(手前)の得点は、相手の左サイドを攻略した結果。イタリアのパスサッカーが効いていた 【写真:ロイター/アフロ】

 しかしイングランド戦では、格段に違う完成度を披露した。中盤で細かく、とにかく丁寧にパスをつなぎ、流れを切らさない。しかもこの日はペースを落として遅攻主体にし、じっくりと相手から攻撃の時間を奪うという狡猾(こうかつ)さまで見せていたのである。

「相手は中盤が薄いから、ここで数的優位が作れる」とプランデッリ監督はにらんでいた。果たして中盤に人数を掛けてパスを回した彼らの前に、イングランドはプレスの掛けどころを見失った。ペースダウンの恐れもあったのか、彼らはハイプレスを掛けずに引いてカウンターを狙う志向へシフトする。もっともボールを持てずに走らされていることに変わりはないわけで、それは後半に響くこととなった。

 そうして面白いように中盤の支配率を高めたイタリアは、イングランドが狙いとしていたサイドを使い、逆に相手の組織を揺さぶり、崩し始めた。中盤のパスワークで時間を捻出し、その間にサイドバック(SB)がオーバーラップを仕掛けて裏を破る。左ではマッティア・デ・シリオの故障で久々にSBに回ったジョルジョ・キエッリーニが高いポジションを取れずにいたが、右では直前にサプライズ招集されたトリノのマッテオ・ダルミアンが果敢に前線へと攻め上がり、さらにそこへカンドレーバも絡んできた。ダニー・ウェルベックの張り付いている右サイドと違い、イングランドの左サイドはサポートが薄い。イタリアはそこを支配し、得点もすべてそのサイドから生み出されたのである。

 前半35分、マルキージオのミドルシュートにつながる右CKは、右サイドの崩しがきっかけとなってゲットできたもの。そして1点を返された後の後半5分、カンドレーバは見事な切り返しから左足でクロスを放ち、バロテッリのヘディングシュートをアシストしている。

バッシング受けていたバロテッリもヒーローに

 そこからはイングランドが猛反撃を掛ける。だがイタリアは余裕をもってこれに対処し、常に整った守備組織を形成して相手の攻撃を防いだ。前半にポゼッションを高めていたことにより、スタミナの消費が抑えられていたのである。一方でイングランドは終盤になってイタリアよりも早く足が止まる。前半で走らされていた彼らは体力を消耗し、そこにリードされた後の攻め疲れも加わったのだ。

 ピッチでは足をつって倒れる選手が続出し、一方でイタリアには逆にカウンター攻撃の回数も増えた。試合後「この暑さで、ドリンクブレイクの時間を設けないのは馬鹿げている。イングランドの選手は6、7人、足をつっていたじゃないか」とプランデッリ監督は語ったが、「ウチの選手にはいなかったがね」と言葉を添えていた。ある種の自信ともうかがえる。

 またこの試合、試合前には不安視されていた選手たちもそれぞれ力を発揮していた。マルキージオもカンドレーバも得点に関わっているし、交代で出てきたMFマルコ・パローロはサイドの守備でピンチを未然に防いだ。
「センターFWとして機能しないヤツの代わりに(チーロ・)インモービレを」などとファンからバッシングを受けていたバロテッリも、15日の地元紙ではすっかりヒーロー扱いである。

 前線でのパスミスを拾われたところからカウンターに持ち込まれ、ダニエル・スタリッジのゴールで1点を失ったのは反省材料だが、ピルロとベラッティを同時起用したMF陣が中央から突破を許すことは、試合を通してほとんどなかった。

 常に構想に入っていたモントリーボとG・ロッシを失い、チームを作り直した結果、ポゼッションは瓦解するどころかさらに磨きを掛けた。「必要なスピードあふれるFWやサイドアタッカーは、代表には存在しない。だからポゼッションに磨きをかけるのだ」とプランデッリは言う。

 地元ではタレント不足が嘆かれるアッズーリだが、4年間かけて作り上げてきたポゼッションはそれを補い、さらに多くの恩恵をもたらしてくれそうである。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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