“幻の球団”のGMが振り返る球界再編「私たちの問題提起は正しかった」

構成:スポーツナビ

新規参入で提示した「親会社からの独立」

当時は「スポーツの地方拡散」「親会社からの独立」をキーワードに、参入プランを策定したというライブドアフェニックス。楽天の成功を見るにつれ、小島氏は「問題提起は正しかった」と参入に奔走した日々を振り返った 【スポーツナビ】

――最終的には楽天が新球団として選ばれたわけですが、楽天が名乗りを挙げた直後から、楽天への追い風が吹いていたように感じますが。
 
 実行委員会での審査では、母体となる親会社の財務体質の評価に重きを置かれていました。私たちとしては「株式会社ライブドアベースボール」という会社を作って、親会社からの独立性を保って運営していこうと思っていました。球団運営を支える親会社の財務指標を見るのは当然だと思いますが、そこに判断基準の重きを置くのか? ということは疑問に思いましたね。親会社からの独立というのは、このプロジェクトを進める上で意識していたことなので、「結局の判断基準はそこ(親会社の楽天とライブドアの経営規模)ですか?」と。もっと「株式会社ライブドアベースボール」のプランを見てほしかったですね。
 
――そういう意味では球界再編騒動の中でも球界の体質は変わらなかったと。
 
 親会社からの脱却というのは、なかなか難しいと思うのですが……。現状、チーム名を見ればはっきりしますよね。「地域名+ニックネーム」ではなくて、「企業名+ニックネーム」ですから。理想で言うとメジャーリーグみたいな「地域名+ニックネーム」の方がいいんでしょうけど、当時はその理想を唯一表現していたベイスターズでさえ「横浜DeNAベイスターズ」になりましたからね。もしかすると日本のプロ野球はこれがベストな形なのかもしれないとも思います。
 
 元来、スポーツはとてもピュアなもの。だから見ている人々は勇気やパワーを感じられるのだと思います。そこに、親会社がどうだとか、経済が停滞しているからどうだとか、見え隠れしてほしくないんです。04年の発端も近鉄の経営不振に始まったわけですし。歴史のある球団が親会社の都合で潰されていいのか、まさにそこに04年の問題の根幹があったわけですよね。私たちが新規参入で提示したことのひとつは、「親会社からの独立」だったと思います。だから、私たちのプランとしては親会社に依存することのないビジネスプランを考え出し資料にまとめました。イーグルスは1年目から黒字を出されましたけど、私たちも同じようなプランを考えていましたから、その結果はうれしかったですね。 

 球団経営が未来永劫継続していくためにも、親会社からの自立は今後も意識してほしいと思いますね。

今後は地域密着から周辺を巻き込む仕掛けが重要

――先ほど話もありましたが、最近ではディー・エヌ・エー(DeNA)がベイスターズ買収に名乗りを挙げましたが、現状のプロ野球において新しく企業が加わることの難しさは何が挙げられますか?
 
 明文化されていないことが多いことですね。Jリーグのように「フランチャイズ規模がこのくらい」「何年連続で赤字が続いたらいけませんよ」といったルールがない。そこがオープンリーグ(マーケットを拡大していく路線)なのか、クローズドリーグ(限られたチームがほぼ寡占した状態で進めていく路線)の違いですが、プロ野球は後者の手法を取っているわけです。願わくば、オープンリーグ化してほしいとは思いますね、計画的に。
 
――最近では16球団への拡大がアベノミクスに盛り込まれるという報道もありますが。
 
 経済が健全に発展するには、「人、もの、金」の流動性を高めるしかない。そうすると12球団のまま、ビジネスを続けていくよりは、フランチャイズを増やしていけば、市場が大きくなり、業界全体が活性化することは目に見えているわけです。球団を増やすことで選手の質が落ちるなど、さまざまなことが言われていますが、プロ野球の繁栄を考えると私は増やした方がいいと思いますね。
 
――球界再編から10年が経ち、プロ野球を取り巻く環境も大きく変わったと思いますが、今後のプロ野球をどう見ていますか?
 
 明らかに変わってはいますよね。12球団が「ファンあってのプロ野球」ということを意識して取り組んで企画していると思います。同時に、地域に根ざして球団経営をしていくにはどうしたって限界があります。地域密着ももちろん大事ですが、それとは別の視点でいかにエリア外のファンを巻き込むかが必要になってきます。
 
 先日、広島がやったような「関東カープ女子の観戦ツアー」が一例ですね。この企画は多くの人たちの共感を得ました。これからは、いかに他地区のファンを自分の商圏に巻き込んでいけるかが鍵になってくると思います。
 
――04年はプロ野球にとって大きな転換点になったと思います。あらためて04年の意味は?
 
 05年の開幕2試合目、千葉マリンで0対26で敗れた楽天が、わずか9年で日本一になったわけです。これは非常に大きな喜びがありましたよね。昨年、多くの球界関係者の方が「楽天の優勝はうれしかった」と言っていました。今まで他球団のスタッフがライバルチームの優勝を喜んだかと言えば、そんなことはなかったと思います。ましてや私たちが「この街だ」と仮説を立てた仙台の地が熱狂的に盛り上がった光景を見るにつけ、私たちが掲げた「スポーツの地方拡散」という問題提起は正しかったんだなと思えます。

<連載、終了>

(取材・構成:森隆史/スポーツナビ)

小島 克典/Katsunori Kojima

96年、アトランタ五輪の野球日本代表チームの通訳を務めたのち、横浜ベイスターズの通訳兼広報、新庄剛志氏のメジャー時代の通訳を歴任。04年には仙台ライブドアフェニックスのGMとして新規参入を目指した。第2回、第3回WBCではプレス通訳として日本代表選手の記者会見を世界のメディアに橋渡しした。現在は、海外スポーツに精通したメディアコンテンツ制作ユニット、スポーツカルチャー研究所を立ち上げ活動中。

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