“南米一おとなしい”チリのサッカー事情 元U−17代表トレーナー佐保豊氏が語る
謙虚な国民性
バルセロナでプレーするサンチェスをはじめ、現在は若手から才能豊かな選手がたくさん出ている 【Getty Images】
チリは南米サッカーの中では珍しく、個人技を重視するというよりも、パスを回して展開する組織的なプレーのほうが特徴的だと思います。コンサバ(保守的)というか、南米の中では一番おとなしい感じのサッカーなのではないでしょうか。ブラジルやアルゼンチンは自分たちが世界一だと思っていて、かなりアグレッシブなのですが、チリの人たちは自分たちのことを分析するとき“気がおとなしい”とか“負けん気で劣る”という話をしています(笑)。これは国民性とも関係していると思います。地理的にも南米の一番端に位置していて、世界の一番端の離れたところにいるので、情報や流行が入ってくるもの遅いと思っている。良く言えば“謙虚”な国民性なんだと思います。
チリの選手の個人技は低いわけではありませんが、ブラジルやアルゼンチンの選手のような高い技術レベルを持った選手は多くありませんでした。ただ、現在はバルセロナでプレーするアレクシス・サンチェスらの台頭もあり、全体的に若い選手の中から才能豊かな選手がたくさん出てきました。もはやサラス、サモラーノがいた絶対的なエースに頼るようなサッカーからは、完全に脱却したと言えます。
“勝手に育つ”育成事情
99年チリU−17国内リーグ。チームはパレスティーノ。前列左から3番目がヒメネス 【提供:佐保豊】
どちらかといえば選手が“勝手に育つ”わけです。例えばあるクラブチームに所属する15歳の選手に実力があると認められれば、すぐに16、17歳のチームに上がれるわけです。中には早々にトップチームに入る選手もいます。飛び級で、その選手を鍛え上げていくわけです。実力のある高校生は、学校に行く時間を午前か午後だけにして、残りの時間はトップチームで練習します。週末はトップチームのメンバーに入れば、チームに帯同し、入れなければユースの試合に出るというシステムが確立されています。これを11歳くらいから始めさせるわけです。
毎週、試合結果を見ながら、昇格と降格を繰り返して選手を競わせるんです。つまり、うまい選手が簡単にプレーできる年代には置かず、常に厳しい場所で競わせます。これって、日本では考えられないですよね(笑)。だからこそ、16、17歳でもプロでデビューしたり、代表チームに選ばれる選手が現れるわけです。
なので、チリで繊細なコーチングをしているようなコーチは見たことがありません(笑)。逆に言えば環境に育てられるわけで、メンタルやフィジカルがすごく強い選手が多いと思いますね。そうした心境の部分を見極めるコーチがチリには多いのかもしれません。
小さいクラブは特に選手を早く商品にしたいという思いがありますから、なおさらでしょうね。私がチリで見ていた選手で、一番出世したのはインテルでプレーしたルイス・ヒメネス(アルアハリ・ドバイ)でした。彼のことを中学生から見ていますが、すごく才能がありましたね。彼とは今でも時々会います。
チリのグループリーグ突破は?
佐保豊プロフィール
米国NATA−BOC公認アスレティックトレーナー
現)日本アイスホッケー連盟理事 男子日本代表チームヘッドトレーナー
現)日本オリンピック委員会(JOC)医科学専任スタッフ
【経歴】
フットサル日本代表チーム(2012W杯)
西武(コクド)アイスホッケーチーム
名古屋グランパス
チリサッカー(U−17、20代表、プロクラブチーム)
長野オリンピック男子アイスホッケー日本代表
NHLアナハイム・マイティーダックス
米国ネバダ州立大学ラスベガス校卒