橋口調教師の悲願 競馬人生最高の1日、定年まで1年半 唯一無二のダービー勝利

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「あそこからよく踏ん張って、伸びてくれた」

折り合いに苦労したワンアンドオンリー(左)だったが、直線は皐月賞馬イスラボニータ(中)を力でねじ伏せた 【中原義史】

 ここまでは思い描いていた通りの最高の展開。しかし、レースは生き物だ。いいことばかりが続くものではない。向こう正面から横山典とワンアンドオンリーは、終始苦しい戦いを強いられていたのだ。
「ずっと引っ掛かっていました。スローだったから後ろもゴチャついていたみたいで、落ち着いたかなと思ったら乗りかかられそうになったり、3回ぐらい危ない場面がありました。4コーナーも手応えよく見えたかもしれませんが、実は無理に抑え込んでいたところもあったんです」

 それだけに、追ってもそんなに伸びてくれないんじゃないか、そんな不安もよぎったという。しかし、「あとは意地のぶつかり合いですよ」。そんな横山典の気合に、ワンアンドオンリーも持てる力をすべて出し切ることで応えてくれた。皐月賞馬との真っ向からの叩き合いを、力でねじ伏せてみせたのだ。
「弾けたというイメージは正直なかったんですが、あそこからよく踏ん張って、伸びてくれましたね。自分としてはもう必死で、何も考えてなかった。下を向いて追うだけで、若手にはよく『下を向いて追うんじゃない』って言ってるんですけど、今回は自分がそうでした(笑)。決して褒められる騎乗じゃなかったですね」

 大レースを勝った喜びの中にも反省の言葉を口にした横山典だったが、橋口調教師とのコンビでは、これまで実にGI2着が7回。このダービーが初めてのGI勝利でもある。
「橋口先生にはいつもお世話になっているので、もう頑張るしかないと思っていました。先生の数少ないチャンスの中で勝てて、本当に嬉しいですね」
 ハーツクライが2着に敗れたダービーでも、手綱を取っていたのはこの横山典だった。当時の父と比較し、完成度ではまだまだワンアンドオンリーが劣るという。
「その状態でダービー勝つんだから、すごいですよね。これからも順調に行って、大きいところで頑張ってもらいたい」

次なる夢はキングジョージ挑戦!

次なる大きな夢、キングジョージ挑戦へ 【中原義史】

 ハーツクライがそうであったように、また代表産駒であるジャスタウェイ、ウインバリアシオンがそうであるように、ハーツクライ産駒の特徴といえば、その成長力にある。ワンアンドオンリー自身もこのダービーが絶頂期ではなく、本当のピークはまだまだ先にありそうだ。そんな愛馬の将来性をすでに予見してのことか、橋口調教師も“次”のさらなる大きな夢を明かしてくれた。
「ハーツクライの仔でダービーを勝ててことは感慨深いものがありますね。実はオーナーとは、もしワンアンドオンリーがダービーを勝ったら来年はキングジョージに挑戦したいというようなことを話していたんです。ハーツクライの仔でキングジョージに挑戦するのは私の夢でした。今回、ダービーを勝てたことで夢に少し近づけたかなと思いますし、今後いっそうワンアンドオンリーを鍛え直して、キングジョージに挑戦することができれば、私の競馬人生はより最高のものになると思います」

 キングジョージとは、英国競馬最高峰レースの1つ『キングジョージVI世&クイーンエリザベスステークス』のこと。ハーツクライは06年に挑戦し、前年凱旋門賞Vのハリケーンラン、その年のドバイワールドカップ優勝馬・エレクトロキューショニストを相手にいったん先頭に立つものの、僅差の3着に敗れている。その借りを、ハーツクライの息子で返そうというのだ。

 人生最大の夢をかなえてくれたワンアンドオンリーは、橋口調教師にとって馬名どおり“唯一無二”の存在となっただろう。そして、ダービーを勝ったことで生まれた新たな夢。ワンアンドオンリーは再びかなえてくれるだろうか――答えはきっと、かなえてくれるに決まっている。橋口調教師とワンアンドオンリーがこれから歩む1年半は、僕だけじゃなく、競馬ファンにとっても至高の時間となるに違いない。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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