橋口調教師の悲願 競馬人生最高の1日、定年まで1年半 唯一無二のダービー勝利

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横山典弘騎乗のワンアンドオンリーがダービー優勝、橋口調教師の悲願がついにかなった 【中原義史】

 JRA3歳最強馬を決める競馬の祭典、第81回GI日本ダービーが1日、東京競馬場2400メートル芝を舞台に争われ、横山典弘騎乗の3番人気ワンアンドオンリー(牡3=栗東・橋口厩舎、父ハーツクライ)が優勝。好位追走から最後の直線、皐月賞馬イスラボニータ(牡3=美浦・栗田厩舎)との叩き合いを制し、2011年生まれのサラブレッド7123頭(持込馬、輸入された外国産馬含む)の頂点に立った。良馬場の勝ちタイムは2分24秒6。

 ワンアンドオンリーは今回の勝利でJRA通算9戦3勝。重賞は2013年のGIIIラジオNIKKEI杯2歳ステークス以来となる2勝目、GIレースは初勝利。騎乗した横山典は09年ロジユニヴァース以来となるダービー2勝目、同馬を管理する橋口弘次郎調教師は、1990年の初挑戦以来18回目、延べ20頭目の挑戦にして悲願のダービー初勝利を飾った。

 なお、蛯名正義騎乗の1番人気イスラボニータは3/4馬身差の2着に敗れ二冠ならず。さらに1馬身半差の3着には松岡正海騎乗の12番人気マイネルフロスト(牡3=美浦・高木厩舎)が入った。

競馬の神様は確かにいた

通算18回目、延べ20頭目の挑戦でついに橋口調教師(左)がダービートレーナーとなった 【中原義史】

 あまりにもドラマチックすぎる結末。個人的な思いも含め、いったい何から書いたらいいのか分からない。
 レース後の共同記者会見が終わり、厩舎エリアへと戻っていく橋口調教師を追いかけていくと、ちょうど福永祐一が通りかかり、橋口調教師に握手を求めに行った。そして、
「橋口先生、競馬の神様っていましたね!」
 まるで自分のことのように笑顔を浮かべて、そう話していた。

 そう、競馬の神様は確かにいたのだ。

 1990年にツルマルミマタオーで初挑戦(4着)してから24年。通算18回目、延べ20頭目の挑戦での嬉しい、嬉しいダービー初勝利。その間、96年ダンスインザダーク、2004年ハーツクライ、09年リーチザクラウン、10年ローズキングダムと、4度も悔しい2着に泣いていた。
「ダービーだけは何としても勝ちたい」
 常々そう口にしていた橋口調教師も現在68歳。JRA調教師は70歳で定年となる規定があるため、あと1年半で引退。つまり、ダービー勝利のチャンスは今年含めて2回しか残っていなかった。いや、来年ダービーを狙える馬が現れる保障などどこにもない。ひょっとしたら今年がラストチャンスだったかもしれないのだ。

 そんな状況での悲願のダービー制覇。やはり、競馬の神様はいた、という他に言葉が見当たらない。

押して先行、名人・横山典の真骨頂

ハナを切る勢いで押して先行したワンアンドオンリー(右から3頭目)、これこそが名人・横山典の真骨頂だ 【中原義史】

「想像を絶するレースですね。周りのみなさんの反応を見てもそうだし、勝ってみて、改めて日本ダービーってすごいレースなんだと分かった。言葉では表現できない。これまで日本のGI、海外のGI含めて大きなレースを勝たせていただきましたが、ダービーはやはり別格。次元が違いますね。もう辞めてもいいくらい(笑)。競馬人生最高の日です」

 橋口調教師の目は、涙で赤く充血していた。レース直後の検量室前では、調教師仲間、ジョッキー、関係者らがこの東西きっての名トレーナーに次から次へと握手。その場が“祝福”で満ち溢れていた。もちろん、ダービーは毎年そういう雰囲気なのだけれど、特に今年に関しては、勝利ジョッキー、勝利トレーナー以上に周囲の喜びが大きかったように思う。これも橋口調教師の人徳、人柄がそうさせるのだろう。
 かく言う僕も、栗東トレセンの取材記者時代は橋口調教師には大変お世話になっており、毎年ダービーでは何はなくとも橋口厩舎の馬を応援していた。だから、今年のダービーは個人的にも最高に感動的なレースだった。競馬を見ていて思わず声が出たのも、ずいぶん久しぶりだったように思う。

 話をレースに移すと、やはり殊勲の第一功は横山典だろう。昨年秋、GIII東京スポーツ杯2歳Sを使うにあたって、陣営は横山典に「ダービーまで頼む」と騎乗依頼したという。
「最近はよく騎手が変わる中で、いまどき珍しいというか、そういうオファーをいただいたので、好きなようにレースに乗って、ダービーに向けて馬を作っていけました。厩舎での調整に関しては橋口先生ですからね、何も不安はなかったですよ」

 横山典のこの言葉どおり、ダービー当日、ワンアンドオンリーは完ぺきに仕上がっていた。橋口調教師自身「スタッフの思いも強かった。厩舎一丸になっているのを感じていた」というほどの究極仕上げ。ワンアンドオンリーもこの思いによく応えた。
「よく仕上がっていたからでしょうね。スタートはいつもそれなりに反応するんですが、どうにも二の脚が遅い。皐月賞のときも行き脚がつかなかったんですが、きょうは加速してくれました」

 そして、ここからが名人・横山典の真骨頂だ。なんと、押してハナを切る勢いで先行集団に取りついてく。これまで差し一辺倒だったワンアンドオンリーからは想像もつかない位置取り。それをこの大一番でやってのける大胆さが、横山典たるゆえんだろう。
「間違いなくスローになると読んでいました。だから、脚を余して負けることだけは絶対にしたくなかった。ハナを切ってもいいくらいの気持ちで行きましたね」
 隊列が固まり前を見ると、ちょうどすぐ目の前には皐月賞馬イスラボニータ。
「一番いい馬が誘導してくれた。目の前に一番いてほしいなと思っていた馬がいてくれました」

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