“王者復活”を印象づけたなでしこたち W杯連覇のキーワードは「成熟」

江橋よしのり

まるで二部構成の映画のような大会

なでしこジャパンが女子アジア杯初優勝。海外組を数名欠きながら、厳しい日程を勝ち抜いた 【写真:AP/アフロ】

 まるで映画だ。今大会はなでしこジャパンを主人公にした、二部構成の映画のようだった。第一部は来年カナダで開催される女子ワールドカップ(W杯)出場権獲得までのストーリー。欧州組をそろえられないというハンデ付きの条件で始まった物語は、初戦でいきなり前回王者オーストラリアの驚異的なスピードを見せつけられる(2−2)。なでしこはなんとか追いつくが、それでも勝ちきれない。脳裏に相手の残像を残したまま、ホスト国ベトナムとの戦い(4−0)を経て、彼女たちはW杯出場権を懸けたヨルダン戦(7−0)を迎える。この試合に起用された若手たちは見事に輝き、大きな目標を達成する。そして試合をベンチで見守った宮間あやキャプテンが、次のようなせりふで第一部を締めくくる。

「W杯の出場権を得ることは通過点。私たちの目標は、アジアカップのタイトルを取ることです。だから、ここがスタート地点です」

 第一部のエンディングは、そのまま第二部『決勝トーナメント編』のプロローグとなった。準決勝に立ちはだかるのは、過去に何度もなでしこの行く手を阻んできた中国だ。

ぶっつけ本番だった中国戦の新布陣

 中国を率いる指揮官は、男子の元代表選手だった郝偉(ハオ・ウェイ)監督だ。2007年に現役を引退して以来、中国超級リーグの長沙金徳などで指導者としてのキャリアを積み、12年に女子代表監督に就任。郝監督は、かつて体格に依存していた中国女子代表を、技術と戦術を伴う集団に変革させつつある。親善試合などではその成果がすでに現れており、今年行った国際試合15試合(今大会のグループステージを含む)は10勝1分け4敗という好成績で、勝利した相手の中にはノルウェーや北朝鮮の名も見られる。油断ならない相手だ。

 対するなでしこジャパンはというと、エース大儀見優季が所属クラブ(チェルシー/イングランド)に戻るため、戦いの舞台を去った。そのため高瀬愛実、川澄奈穂美の新2トップで準決勝に臨んだが、攻撃の形が作れず苦しんだ。

 ハーフタイムに、佐々木則夫監督は思いも寄らない手を打った。川澄と宮間の位置を入れ替え、宮間をセカンドトップに置いたのだ。「練習でもやったことがない」(阪口夢穂)という布陣だったが、前線の役割は明確になり、それぞれの長所も発揮されるようになった。この布陣の狙いについて、佐々木監督の言葉を引きながら整理してみたい。

「前半は高瀬と川澄に期待していた役割が逆になってしまった」。そこで監督は、高瀬には前半同様、相手ディフェンスラインの背後を狙う動きを続けさせる一方、スピードが武器の川澄を、守備網の中でボールを受けてさばく役割に埋没させないための方策を考えた。つまり「相手守備陣の間で受けるならば、宮間のほうがいい。サイドで仕掛ける役割は、宮間よりも川澄のほうがいい」。お互いの持ち味がより発揮できる布陣を指示すると、後半は見違えてボールが回るようになった。また、その後方でゲームメークしていた阪口は、フォーメーション変更後の手応えを「MFの中央が3人になり、その一番前に(宮間)あやがいることで、私が受けたボールをワンタッチであやに預けられるようになりました」と語っている。ぶっつけ本番ではあったが、チーム全体を最適化させた新フォーメーションは、対中国というだけでなく、今後の戦いにも有効な武器になる可能性を感じさせた。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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