MLBで根付き始めたビデオ判定、先駆者・NBAの高いプロ意識から学ぶ

スポーツカルチャー研究所

ビデオでひっくり返った45%の判定

今季からMLBで拡大されたビデオ判定。ニューヨークに作られたオペレーションセンターで全試合の映像を確認している 【写真:AP/アフロ】

 メジャーリーグベースボール(MLB)は今季から新たな試みとしてビデオ判定の適用範囲を、本塁打に関するプレーのみから、ストライク・ボール以外の全ての判定に拡大した。2日にはMLB機構が開幕から4月末までの運用状況を発表し、191回の利用に対して85回の判定が覆ったことが明らかになった。これだけ見れば45%もの判定がひっくり返ったこととなり、この数値は大方の予想より高いものと言えるが、現場からはビデオ判定の運用を疑問視する大きな声は聞こえてこない。理由の一つに、NBA(バスケットボール)やNFL(アメリカンフットボール)のプロリーグが先行導入していたビデオ判定に遅まきながらMLBがようやく追いついた、ある種の安堵(あんど)感があるような気がしてならない。

 筆者はニューヨーク・メッツに勤務していた11年前に「インスタント・リプレイ」と呼ばれる現在のビデオ判定の原型となる仕組みを目の当たりにしたことがある。それは試合観戦と意見交換のためにクラブハウスを訪れたNBA審判部のスタッフを紹介されたことがあった。

 NBAでは2002−03年シーズンから「インスタント・リプレイ」を導入する英断を下していた。少し大きめのノートパソコンを持ち歩いていた彼らは、コート上でジャッジする実際の審判員ではなく、ブロードバンド化が進んだインターネットを活用した情報共有システムの責任者のようなポジションだった。彼らのミッションは、判定の難しいシーンを動画で編集して、全米各地にいる全ての審判員にメールを送り、映像の確認を促すことだった。メールを受信した審判員たちは、12時間以内に動画がアップロードされているURLをクリックして、所見をフィードバックすることが課されていて、そのシステムを構築・運用していたのが彼ら審判部スタッフだった。

トラブルを防ぐための「見える化」

 当時の米国はインターネット環境がひと通り整備された頃で、プロ球団や審判たちが定宿とするような一流ホテルは、どこもナローバンドからブロードバンドに切り替わっていた。リーグ運営を高いレベルで保つために、審判のレベル向上は不可欠という視点から、時代の進化を積極的に活用しつつ業務改善に取り組んでいたNBA審判部のプロ意識の高さに、筆者は心底、感心した。

 野球と違って激しいボディコンタクトがあるバスケットボールの審判員は、幾つもあるファウルの判定を時に下さなければならない。さらに枠外からシュートする時にスリーポイントラインを踏んでいなかったか、アウト・オブ・バウンズの時に最後にボールに触れたのは誰か、など、バスケットポイント以外の判定が複雑だ。フェンスを越えたか否かをめぐる打球判定を除けば、ほぼ全てが本塁を中心に4つの塁上で起こる野球とは、この点が大きく異なる。

 バスケットの審判員の難しさを「オフ・ザ・ボールのポジショニング(いかに見やすいポジションを取るか)に尽きる」と教えてくれたNBAの審判部スタッフは「起きてしまったミスジャッジを巻き戻すことはできないが、問題を共有することが、次のトラブルを未然に防ぐ最良の準備になる」と、ビデオ判定システム導入の狙いを教えてくれた。問題の共有が次なる問題に備える最良のプロセス。NBAはすでに10数年も前から、リーグを挙げての見える化、可視化に取り組んでいた。

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