フジキセキの縁がつながる奇跡の皐月賞 蛯名イスラボニータの夢物語は二冠目へ

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フジキセキを思い起こさせる最後の脚

最後にトゥザワールドを突き放した脚は、父を彷彿とさせた 【写真:中原義史】

 しかし、さすが日本きってのトップジョッキーだ。最初のホームストレッチから1コーナーにかけて外枠の馬が一斉にインへとなだれ込んできた激流をじっと我慢させてやり過ごすと、「むしろインへ入ってきてくれたから、逆に外に出しやすかった」と蛯名。外側に1頭分の隙間ができたと見るや、1コーナーから2コーナーでジワリ、ジワリ外へと進路を寄せる。向こう正面に入ったころには内にも外にも他馬はなく、イスラボニータがポツンと1頭、ちょうど中団を追走する形となった。

「運もありましたね」
 そう謙遜したジョッキーだったが、そんな運を手繰り寄せられたのも、それまでの緻密な操縦があってこそだろう。向こう正面からは馬場が痛んでいないギリギリのラインを走り、また「新馬以来の折り合いだった」と人馬の息もぴったり。あとは最後の直線で、タメにタメた自慢の末脚を爆発させるだけだった。

「折り合いがついていたから、間違いなく弾けるなと思っていました」
 先に抜け出したトゥザワールドの外から強襲すると、一度は1番人気馬も抵抗したが、なにせ勢いが違った。急坂を上り切ったあとの残り100メートルから一気に突き放した脚は、まるで父フジキセキの弥生賞を思い起こさせるものだった。
「最後は思ったよりも後ろが離れたなとは思いましたけど、思った通りの競馬ができた。それが良かったですね」

二冠、三冠と実現したら……

次走はダービー、父フジキセキが果たせなかった勝利を再び目指す 【写真:中原義史】

 これまでフジキセキ産駒のJRA・GIは10勝を数え、その中からダートの怪物カネヒキリや、スプリントGI2勝のキンシャサノキセキといった名馬を輩出してきた。しかし、どういうわけかクラシックだけは勝てなかった。それは早くに種牡馬入りしてしまったがために、全盛期の偉大なる父サンデーサイレンスと真っ向から競合してしまったこともあっただろう。また、そうして“フジキセキ産駒はクラシックを勝てない”というイメージがついたまま、サンデーサイレンス亡きあとは、ダンスインザダークやスペシャルウィーク、アグネスタキオン、ネオユニヴァース、ステイゴールド、そしてディープインパクトといった同じSS産駒の後輩たちがクラシック馬を輩出して台頭したため、いっそう影に隠れてしまった面もあっただろう。いわば、フジキセキは時代に翻弄されてしまった種牡馬と言えるのかもしれない。

 だが、ようやく現れた文字通りの“最後の大物”。天性のしなやかさ、柔軟性こそがイスラボニータの最大の長所だという蛯名は、次に目指すクラシック二冠目にして、競走馬最大の目標となる日本ダービー(6月1日、東京2400メートル芝)に向けて、「折り合いがついて、とにかく順調に行ってくれれば、他の馬も条件は同じですから、こなしてくれると思います」と力強く約束してくれている。

“幻の三冠馬”最後の産駒から父の無念を晴らすクラシックホースが誕生するなんて、本当に出来すぎた話で、それこそ奇跡だと思う。でも、これが現実なのだから競馬は面白い。そして、気の早い話で恐縮だが、さらに二冠、そして三冠までもと実現する……そんな夢物語を見てみたいとも思った。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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