フジキセキの縁がつながる奇跡の皐月賞 蛯名イスラボニータの夢物語は二冠目へ
フジキセキを思い起こさせる最後の脚
最後にトゥザワールドを突き放した脚は、父を彷彿とさせた 【写真:中原義史】
「運もありましたね」
そう謙遜したジョッキーだったが、そんな運を手繰り寄せられたのも、それまでの緻密な操縦があってこそだろう。向こう正面からは馬場が痛んでいないギリギリのラインを走り、また「新馬以来の折り合いだった」と人馬の息もぴったり。あとは最後の直線で、タメにタメた自慢の末脚を爆発させるだけだった。
「折り合いがついていたから、間違いなく弾けるなと思っていました」
先に抜け出したトゥザワールドの外から強襲すると、一度は1番人気馬も抵抗したが、なにせ勢いが違った。急坂を上り切ったあとの残り100メートルから一気に突き放した脚は、まるで父フジキセキの弥生賞を思い起こさせるものだった。
「最後は思ったよりも後ろが離れたなとは思いましたけど、思った通りの競馬ができた。それが良かったですね」
二冠、三冠と実現したら……
次走はダービー、父フジキセキが果たせなかった勝利を再び目指す 【写真:中原義史】
だが、ようやく現れた文字通りの“最後の大物”。天性のしなやかさ、柔軟性こそがイスラボニータの最大の長所だという蛯名は、次に目指すクラシック二冠目にして、競走馬最大の目標となる日本ダービー(6月1日、東京2400メートル芝)に向けて、「折り合いがついて、とにかく順調に行ってくれれば、他の馬も条件は同じですから、こなしてくれると思います」と力強く約束してくれている。
“幻の三冠馬”最後の産駒から父の無念を晴らすクラシックホースが誕生するなんて、本当に出来すぎた話で、それこそ奇跡だと思う。でも、これが現実なのだから競馬は面白い。そして、気の早い話で恐縮だが、さらに二冠、そして三冠までもと実現する……そんな夢物語を見てみたいとも思った。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)