サバイバル合宿で生存競争は一段と激化 大逆転で代表入りを目指す豊田、青山ら

元川悦子

あくまでチームの歯車の1つに徹した豊田

戦術を実施しつつ、自分の特徴を出すという意識が多くの選手から見受けられた。監督のおめがねにかなうのは果たして…… 【写真は共同】

 スタンドに大勢のサポーターが詰めかけた9日の千葉県内のグラウンド。FIFAブラジルワールドカップ(W杯)に向けた日本代表サバイバル合宿のラストとなる流通経済大学との45分×2本の練習試合が行われた。

 アルベルト・ザッケローニ監督が目を光らせる中、1本目を戦ったのは豊田陽平、工藤壮人、齋藤学、高萩洋次郎、青山敏弘ら昨夏の東アジアカップ(韓国)に出場した攻撃陣だった。
 開始早々の5分、齋藤の左クロスに工藤がファーから詰めてヘディングシュート。存在感をアピールしようという強い意気込みを見せる。工藤のみならず、齋藤や豊田も積極的に点を取りに行くが、フィニッシュの精度が甘く、ゴールを割れない。それでも、ザックジャパンの戦術を実践しつつ、自分の特徴を出そうという強い意識が彼らからうかがえた。

 左サイドを上がった安田理大のクロスに豊田がつぶれ、工藤が飛び込んだ36分の得点機は1つの象徴的なシーンだった。
「クロスが上がった際、普段なら自分の得意な動きや嗅覚を第一に考えるけれど、このチームにはニアとファー(に流れる)というコンセプトがある。僕の前には人がいないので、まずニアを取らないといけなかった。僕がニアに詰めた時に工藤や(齋藤)学がファーへ行く動きはできていたと思う。あとは点だけですね」と豊田はあくまでもチームの歯車の1つに徹したことを明かした。

青山も「コンセプトをオートマチックに体現したい」

 攻撃陣にチャンスボールを何本か供給した青山も、(チームの)コンセプトをオートマチックに体現することを主要テーマに掲げていた。
「自分は代表に入って日が浅いし、コンセプトがまだ体になじんでいない。考えながらやっている部分もあるので、この3日間に少しでもオートマチックに反応できるように努めたつもり。タテを意識したボールを多く出せたのも、自分のイメージを自然とグラウンドで出せるようになってきたから。3日間でもだいぶ進歩したと思います」と多少なりとも手ごたえをつかんだようだった。彼らがチーム内の役割を最重要視したのも、過去の代表招集でイタリア人指揮官から事細かく指示を受けてきたことが大きい。

 2本目に出場してゴールを挙げた川又堅碁や南野拓実らもそういう意識はもちろん持っていたし、南野などはトップ下と左サイドの両方を瞬く間にこなして適応力の高さと爆発的成長の可能性を感じさせた。が、チームコンセプトの成熟度という意味では、1本目の攻撃陣よりどうしても劣る部分がある。
「練習でやった距離感でサッカーができなかったし、ボランチからのボールの引き出しもあまりうまくいかなかった。今日は単に点を取っただけ」と川又が反省の弁を口にしたのも、戦術理解の部分で満足いかない部分があったからだろう。「頭のいい選手はすぐにできると思うので」と彼は練習時間の長短ではないと強調したが、ブラジル本大会まで残された準備期間が3週間程度しかないこと、本田圭佑ら主力とのプレー経験が皆無であることを考えると、やはり新戦力の最終メンバー入りへのハードルは高いと言うしかない。
 千葉合宿を経て、生存競争は一段と激化したが、東アジアカップ経験者でその後も断続的に呼ばれている齋藤、工藤、青山、豊田あたりの優位性はまだ高いと考えていいはず。今回新戦力として呼ばれた選手よりも、彼らの方が2014年ブラジルW杯メンバー23人に近いところにいるのは確かだろう。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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