サバイバル合宿で生存競争は一段と激化 大逆転で代表入りを目指す豊田、青山ら

元川悦子

合宿メンバー・海外組・ベテランを比較して最終判断か

チームコンセプトを意識したと言う豊田。ゴールこそ奪えなかったものの、役割は明確に描けたようだ。 【写真は共同】

 右ひざ負傷で長期離脱している長谷部誠と同じボランチの青山はその筆頭と言っていい。ザッケローニ監督も千葉合宿後の欧州視察で細貝萌のところを訪れると明らかにしており、青山と細貝、ベテランの中村憲剛らを比較して、最終判断を下すつもりなのだろう。

 東アジアカップで初招集となった青山は、山口蛍とコンビを組んで攻撃のリズムを組み立て、優勝に貢献した。直後の8月のウルグアイ戦(@仙台)では控えにとどまったが、9月のグアテマラ戦(@大阪)では途中出場。08年北京五輪代表発足時からの盟友・本田と久しぶりの競演を果たした。ところがこの翌日、虫垂炎にかかって急きょチームを離脱する羽目に陥る。こうした影響もあったのか、10月のセルビア戦(ノヴィサド)・ベラルーシ戦(ジョジナ)2連戦、11月のオランダ戦・ベルギー戦アウェー2連戦は、代表復帰した細貝に押し出される形でメンバー外となった。しかしながら、長谷部の負傷で再びチャンスが巡ってくる。3月のニュージーランド戦(@東京)で山口とのコンビ再結成を果たした彼は、攻守両面でバランスを取り、前半の怒涛の攻めを力強く支え、評価を一気に上げた。この実績を引っ提げて今回の千葉合宿に参加したわけだが、自身の中では「チャレンジャー」という自覚は変わらなかった。
「すでに決まってる選手は来ていないし、自分がW杯を口にできる立場じゃないことは分かっている。実際、僕は代表で何もしていない。その中でもチャンスをもらえていることに感謝しながら、監督が要求していることにすぐ反応できるようにやっていきたい」と本人も力を込めた。

 こうした意識の高さは、練習試合の45分間にも確実に表れた。青山がボールを持つとチーム全体が落ち着き、攻撃のスイッチが入る。そういう場面はたびたび見られた。
「ホントはもっと前へ行きたいですよ。自分の良さはタテだし、全部タテを狙いたいくらい。コンセプトに対するみんなの意識が噛み合えば、ダイレクトにゴールにつながるようなパスも増えてくると思う。海外組がいればもっと自分の良さも出るかもしれないね」と冗談交じりに話しつつ、より高いレベルへの渇望をにじませた。

 青山には山口や細貝のような球際の強さやボール奪取能力はないかもしれないが、遠藤保仁に匹敵するようなゲームメーク力があるのは確か。遠藤のジョーカー的起用が増えているだけに、この男の存在はザックジャパンのカギになるかもしれない。青山はJの舞台で安定感あるパフォーマンスを見せ続けるのはもちろんのこと、課題といわれる守備面のアグレッシブさ、1対1の粘り強さを改善するように日々努めるべきだ。

最後のジョーカー枠はフォワード!?

 一方、世界で真っ向勝負を挑むうえで、高さのあるフォワード(FW)の必要性を唱える声は以前から根強い。W杯の対戦相手を見ても、コートジボワールにはディディエ・ドログバがいるし、ギリシャのセットプレーの迫力には定評がある。相手のリスタート時やクロスを放り込んでくる終盤の時間帯に頭で跳ね返せる中心選手の存在はやはり重要だ。ザッケローニ監督が最終予選でハーフナー・マイク、東アジアカップで豊田、今回の千葉合宿で川又を呼んだの、その部分を視野に入れているからだろう。

 しかし現状では、彼らのいずれも代表定着には至っていない。豊田にしても、東アジアで初招集された後、ウルグアイ戦にも呼ばれ、後半17分からピッチに立ったが、星稜高校時代の後輩で北京五輪でもチームメートだった本田ら主力選手からパスをもらえず、大いにショックを受けたという。
「本田との連携? ほとんどなかった。東アジアカップの時はJリーグの選手が多かったので自分の特徴を分かってもらえたと思うけど、海外組中心だと自分の良さを出しにくい。自分は一番前でポジションを取っているから、ゴールに絡む仕事をするにはボールを出してもらわないといけない。そのための信頼感を得る必要があると改めて感じた」と彼は新参者の厳しさを切々と語っていた。

 それでも、約半年ぶりに追加招集されたニュージーランド戦では残り10分というところで投入され、本田とのリズミカルなパス交換からFKを得る場面を作った。
「(本田とは)もともと知らない仲ではなかったし、(8月の時に)パスが出てこないのが何でか分からなかった。フラストレーションもたまりましたけど、もうクラブでやるしかないと思っていた。だいぶ時間が空いたけどまた代表に呼ばれて一緒にやって、一歩前進したとは感じました。恥ずかしい話ですけど、僕にとっては本当に大きな一歩。代表の一員になるにはパスをもらって自分の仕事をして点を取らないと。与えられた時間で結果を出すことが一番だと思います」と豊田は前向きにコメントしていた。

 千葉合宿の練習試合でも、本田や香川真司、岡崎慎司らとプレーするイメージを持ちながら黒子に徹した部分はあったはず。一番求めていたゴールが取れずに悔しそうな表情を浮かべたが、「監督から指導されたポジション取りは意識しました。クサビの受け方についてはアピールになったかなと。自分が最終メンバーに選ばれるとしたら、最後の時間帯に仕事をする選手という立ち位置だと思う。そこで身体能力を生かすこと、(サガン)鳥栖でもやっているような全速力で何本も走るような守備を意識してやっていきたい」と言うように、自分の役割は明確に描けたようだった。

 1トップ要員が2人なのか3人なのか、2列目のバックアップを何人にするのかによって、豊田の扱いは大きく変わる。ただ、いずれにしても彼が齋藤、工藤、南野、ハーフナーらと限られたジョーカー枠を競わなければならないのは事実だ。つねに泥臭く献身的にプレーするという意味で、彼は2006年ドイツW杯でサプライズ選出された巻誠一郎と重なる部分がある。そんな先輩の例を参考にしながら、目下5点を挙げているJの舞台でゴールを量産し続けることしか、逆転代表入りの道はない。
 北京五輪世代である青山と豊田は、本田や岡崎・長友より1つ年上。今回のブラジル大会が最初で最後のW杯出場のチャンスといっても過言ではない。だからこそ、残された1カ月間で悔いの残らないようなアピールをしてほしいものだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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