手応えと課題をつかんで夏へ センバツを沸かせた6人の球児たち

松倉雄太

プロスカウトの注目度を上げた豊川・田中

2年生では履正社・永谷、桐生第一・山田(写真)らに注目が集まった。来年、日本で開催される18Uワールドカップでは中心選手となることが期待される 【写真は共同】

 1年夏ベスト4、2年夏ベスト8の実績がある、明徳義塾・岸潤一郎(3年)にとって3度目となった甲子園もベスト8に終わった。

「今度こそ優勝を」と本人や馬淵史郎監督が強く意識しての選抜だったが、初戦から智弁和歌山高と延長15回の激闘を演じるなど、今回は優勝運がなかった印象だ。ただ、智弁和歌山高戦では、強力打線を相手に、15回完投ながら、188という球数でまとめている。「肘や腕がどうなっても構わない」というほど、相手打線に対して神経をとがらせながら、200球を超えなかったのは、岸だからこそと言えるだろう。1年時に比べて、感情を顔に出すことも少なくなった。これまでの経験が、確実に岸にとってプラスとなっている。2回戦の関東一高戦の1点差、準々決勝の佐野日大戦の延長11回と、厳しい戦いが続いて力尽きる形となったが、将来へ向けては、また一つ大きな経験ができたと言えるのではないだろうか。

 また、初出場でベスト4まで進出した豊川高。初戦で神宮準優勝の日本文理高に延長13回でサヨナラ勝ちし、準々決勝では神宮大会覇者・沖縄尚学高を破った。
 ベスト4進出への原動力となった一つが、エース・田中空良(3年)の存在だ。大会前の甲子園練習では、「豊川の名前を売るチャンス」と強気のコメントを発していたが、その言葉に恥じないピッチングで甲子園を沸かせた。中でも2回戦の池田高戦が田中のピッチングを表している。2回にもらった4点のリードを生かし、相手打線との力関係も頭に入れて、速い投球テンポで打ち取っていった。投球数108、試合時間1時間33分と早い試合で次の沖縄尚学高戦へ向けて、体力を温存した。
 その沖縄尚学高戦でも、序盤に大きなリードをもらい、速い投球テンポで相手打線を2点に抑えた。しかし、この試合の7回のマウンドで股関節を痛め、続く準決勝の履正社高戦では6回から登板。2イニングで5失点だったが、間違いなく今大会を沸かせた1人となった。プロのスカウトからも、「これからも追っていかなければいけない選手」というコメントが聞かれた。

履正社・永谷、桐生第一・山田らは世界を見据えた成長を期待

 今大会の直前、来年のU18ワールドカップが日本で開催されることが決まった。現在の2年生世代が、日本代表メンバーの中心となるだけに、選抜では2年生選手の活躍にも注目が集まった。

 まず、ナンバーワンと言っていいくらいのインパクトを残したのが、準優勝した履正社高の永谷暢章。同学年のエース・溝田悠人が1回戦で小山台高を完封し、「刺激を受けた」という2回戦。駒大苫小牧高相手に出番が巡ってきた。3回途中からマウンドに上がると、力強い直球で相手打線を打ち取る。今大会登板投手最速の147キロもマークした。「これまでなら打たれていた直球でも三振が取れた」と大きな自信を得た一戦。その後は試合を重ねる毎に疲労が増し、決勝では痛い本塁打を浴びて悔しい思いをしたが、まだ2年生の永谷にとっては、計り知れないほどの経験を積んだ大会となった。同級生と溝田と切磋琢磨し、夏の全国制覇、そして来年の世界を目指す。

 もう1人挙げたいのが桐生第一高のエースで4番・山田知輝だ。2回戦の広島新庄戦では、延長15回引き分けと再試合の24イニングでわずか1失点。驚くようなすごい球はないが、相手打者が「何で打てないのだろう」と首を傾げるほどの制球力が山田の武器である。打者としては好不調の波があったものの、バットに当たった時のインパクトが目を引いた。大会前に練習試合をしたあるチームの監督も、「日本ハムの大谷(翔平)みたいなバットコントロールとパワーを感じる」と話す。まだ2年生。これから投打のレベルアップを図れば、来年の高校日本代表の中心選手となる素質を秘めているように感じられた。

 さて、春が終わればいよいよ夏へ向けての戦いが始まる。
 今大会開会式で優勝旗を返還した浦和学院高の小島和哉(3年)と、準優勝旗を返した済美高・安楽智大(3年)の両主将は、ともに「(ここで投げられなくて)悔しさが増した。夏にはここに帰ってきたい」と思いを強くして、チームに戻った。昨夏優勝投手の前橋育英高・高橋光成(3年)も、激戦必至の群馬大会を目指し、鍛錬を積んでいる。さらに新たな主役の誕生や、来年の世界を目指す下級生の成長を楽しみに、夏を待ちたい。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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