羽生結弦、逆転優勝を生んだ“怒り”の力
壮絶な死闘制し、史上2人目の3冠達成

全身全霊を懸けた『ロミオとジュリエット』

キス&クライで珍しく感情を前面に出し喜んだ羽生。この様子はいかに今大会が厳しかったかを物語っていた
キス&クライで珍しく感情を前面に出し喜んだ羽生。この様子はいかに今大会が厳しかったかを物語っていた【写真:ロイター/アフロ】

 自身の得点が発表され、暫定首位の町田樹(関西大)を上回ったことが分かった瞬間、羽生結弦(ANA)は、キス&クライで両手を挙げて飛び跳ねた。日ごろは冷静な五輪王者が珍しく解き放った感情。それはいかにこの戦いが厳しかったかを物語っていた。


 3月28日に行われたフィギュアスケート世界選手権の男子フリースケーティング(FS)は、ソチ五輪金メダリストの羽生が191.35点をマークし、合計282.59点でショートプログラム(SP)3位から逆転優勝を飾った。


 演技直前までは苦しい状況に追い込まれていた。26日のSPでは4回転トゥループの転倒が響いて3位スタート。首位の町田には6.97点差をつけられた。FSでも前に滑った町田が自己ベストを大きく更新するスコア(184.05点)を出し、逆転には191.02点以上が必要だった。羽生のパーソナルベストは昨年12月のグランプリ(GP)ファイナルで記録した193.41点。つまりはそれに近い演技を披露しなければ頂点への道は開かれなかったのだ。


 しかし、19歳のチャンピオンはその難題をクリアした。演技冒頭の4回転サルコウ。今季ISU(国際スケート連盟)主催の大会では1度も成功していない大技だったが、バランスを崩しながらもなんとか着氷すると、続いて2日前にはミスした4回転トゥループもなんなく成功させた。これで流れをつかんだ羽生は、3回転フリップこそエラーを取られたものの、キレのある滑りで大観衆を魅了。最後はリンクに倒れ込むほど全身全霊を懸けて、『ロミオとジュリエット』を演じ切った。


「FSの時間が短く感じました。実際に耐えるシーンもいっぱいありましたし、完璧ではなかったと思うんですけど、今季最終戦でこのプログラムを最後まで立って演じることができたことをうれしく思います」

ソチで味わった悔しさがモチベーションに

 逆転優勝できた最大の要因を「意地と気合い」と答えた羽生。五輪で頂点を極めながらも、さらなる高みを目指す意欲は増すばかりだ。モチベーションの1つには、ソチで味わった悔しさがある。SPは前人未到の100点超え(101.45点)を果たしたが、FSでは4回転サルコウの転倒をはじめミスを連発。優勝を争っていたパトリック・チャン(カナダ)の不調に助けられ、金メダルこそ獲得したものの、自らの力でつかみ取ったというより、転がり込んできた戴冠と言っても過言ではなかった。


「優勝したという結果については誇らしく思っていますが、はっきり言って自分の演技には満足していません。自分の能力、自分の実力を大きな舞台で発揮できなかった。やっぱり緊張しましたし、あらためて難しい舞台だと痛感させられました」


 演技後の会見は、とても優勝者のそれではなかった。笑顔もあまり見られず、悔しさが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。五輪終了後、一度は日本に戻ったが、すぐに拠点としているカナダに帰ったのも、その表れだろう。翌月に開催される世界選手権に向けて、一刻も早く練習を開始したかったのだ。


 羽生を指導するブライアン・オーサーコーチも驚いたという。

「ユヅルが思っていたより早くカナダに帰ってきて、結構びっくりした。しかも次の世界選手権に対するモチベーションが非常に高かった。いわゆる五輪からの“時差”というものを感じさせず、トレーニングに集中してくれたことは、私にとってもうれしかった」


 大会前の公式練習では4回転サルコウを成功させるなど好調を維持。GPファイナル、五輪、世界選手権の3冠獲得へ視界は良好だった。

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