新生・手倉森ジャパンが示したスタイル U−22アジア選手権総括

飯尾篤史

指揮官が併せ持つ相反するふたつの資質

守備から入り「ボールを握る」スタイルへとシフトしていくチーム作りは、手倉森監督(右)が仙台を率いたときと共通している。選手選考を含め、今後は指揮官の好みがより反映されていくはずだ 【写真は共同】

「守備から入る」慎重な姿勢は、選手起用にも見て取れる。
 中盤の3人のうち2人が守備力を武器とする選手というのは、前述した通り。また、センターFWの鈴木武蔵(アルビレックス新潟)を重用した理由についてまず挙げたのも、「コーナーキックの守備でニュートラルの役目(誰のマークにもつかず、ニアサイドではじき返す役目)を担っていたから」「センターバック(CB)からアンカーへのコースをつぶしながら、プレスの方向付けをしてくれていた」というように、守備での貢献についてだった。

 その一方で、采配において大胆さも見せている。
 例えば、イランとの初戦。2−3でリードされていた60分、右サイドハーフの矢島と右サイドバックの松原健(新潟)のふたりを同時に投入した。
 その後、左サイドハーフの中島翔哉(東京V)がミドルシュートをたたき込んだが、中島に対する相手の警戒心が弱まったのは、日本が右からの圧力を強めていたことが伏線としてあったのかもしれない。

 また、オーストラリアとの第3戦では、前述したように4−3−3の布陣で相手のストロングポイントを封じることに成功した。実はこれは、練習でも試したことのない形だったのだ。指揮官が言う。
「このグループには4−4−2をベースに、4−2−3−1、4−3−3、4−1−4−1、4−5−1というのが全部できそうなメンバーがそろっているな、と練習で感じていた。決断したのは昨日(オーストラリア戦前日)の食事の前。選手に伝えたのは今日だった」

 慎重な姿勢と、大胆な決断――。相反するふたつの資質を併せ持つのは、46歳という若き指揮官の魅力と言えるかもしれない。

早くも選手の発掘に意欲を示す

 グループリーグは中1日の試合間隔だったため、メンバーを大幅に入れ替えて戦った。だが、その中でも西野貴治(ガンバ大阪)、植田直通(鹿島アントラーズ)、鈴木の3人は4試合すべてで先発出場を果たしている。彼らに対する指揮官の信頼が厚いのは間違いないが、しかし、この先も彼ら3人がチームの軸となっていくかどうかは分からない。

 とりわけ、CBに関しては、遠藤航(湘南ベルマーレ)が負傷のため辞退し、奈良竜樹(札幌)と秋野央樹(柏レイソル)の2人も負傷のため、出場できなかったという経緯がある。

 そもそも今回の選考自体、手倉森監督が関わっているわけではない。12月末まで仙台を率いていた指揮官に代わって、日本サッカー協会の技術委員会が中心となってメンバーを選んでいるからだ。

 それゆえ、手倉森監督は早くも選手の発掘に意欲を示している。再び、イラク戦後の取材エリアで、指揮官が口を開く。
「就任してわずか2週間でタイトルが取れるほど、甘いものじゃない。そのことをまずは自分に言い聞かせたいと思います。予定よりも早く大会が終わってしまったけれど、逆にチーム作りの時間をもらえたとポジティブに捉えている。今大会の彼らとしっかり競争できる選手を発掘し、組み合わせていくことをこれから真剣にやっていきたいと思っています」

 3月下旬には国内合宿が予定されているという。選ばれるメンバーは、手倉森監督の好みや狙いがよりダイレクトに反映されているはずだ。そこで初めて、2年後のリオデジャネイロ五輪を目指すU−21日本代表の本当の姿が見えてくる。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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