アレグリ監督解任、本田への影響は?=不振を極めるミランのチーム事情

神尾光臣

得意なはずの守備組織構築に失敗

後任候補と目されているセードルフ。まだ現役の選手だが、以前から指導者となる準備を整えていたという 【Getty Images】

 ただ、ミランでは好成績を挙げる傍ら、少なからず敵も内部に作ってしまった。フィリッポ・インザーギやジェンナーロ・ガットゥーゾらのベテランはわだかまりを残したまま退団。あのズラタン・イブラヒモビッチ(現パリサンジェルマン)とも当然衝突。なによりシルビオ・ベルルスコーニ会長からは目の敵にされていた。チャンピオンズリーグでバルセロナから金星を挙げても、FWを実質一人だけ残して守備をさせるようなサッカーは全く会長のお気にめさなかった。我慢できなかったベルルスコーニ会長は昨年5月、「アレグリはローマと密約をかわしている」などと吹聴し、辞任を迫ったこともあった。

 もっともこれまでは、成績が良いためクビを免れていた面もあったが、前半戦を終了した時点でたったの勝ち点22という成績に、クラブを低迷させれば人望もたちまち地に落ちる。「守備で勝つ」と言いながら、失点はこれまで合計30失点。アウエーではわずかに1勝しかできなくなるほどチームは落ちぶれた。

 それにしても、昨シーズンは低迷を跳ね返し3位でフィニッシュしたクラブが、同じ監督のもとでなぜ機能しなかったのだろうか。アレグリ自身が理由に挙げていたのは、故障者の多さだ。アレグリ監督は昨シーズン末、「攻撃では枚数が整わず、DFに至ってはセンターバック、SBともに人数が足りず、本職でない選手を無理矢理コンバートさせなければならなかった」と述懐している。

 もっとも、やりくりが大変な中で得意とする守備組織の構築も、上手くいっていなかった。良い例がサッスオロ戦で、アタッカーの枚数を減らし守備を重視したはずだった前半の布陣で3失点を喫したことは、監督本人も認めているが明らかな矛盾の表れであった。
 そして前半戦ではユベントス、ナポリ、フィオレンティーナ、ベローナ、そしてインテルと、ローマを除いた上位陣にすべて負けている。アレグリ監督がいくら後半の巻き返しを誓っても、残念ながら説得力には乏しかったのである。

 周囲の愛想も尽きた。13日の午後3時2分、一人寂しく自家用車でミラネッロを去る彼にサポーターから罵声が飛ぶ。「まだいたのか!」、「失せろ! そして二度と帰って来るな!」。車の窓に報道陣のカメラが寄るが、取材には応えず、逃げるように車を走らせる。スクデットをもたらした知将の末路としては、あまりにも惨めなものだった。

後任の最有力候補はセードルフ

 さて、アレグリが去った後、当然注目はその後任ということになる。とりあえずその座には暫定的にタソッティが就くことになったが、暫定というからには本命候補が別に存在することを意味する。そしてその候補は、ほぼ間違いなくミランOBのクラレンス・セードルフになるともっぱらのうわさだ。ユースで監督を務めるインザーギの内部昇格もうわさには上がったものの、前者がほぼ有力だと地元メディアでは見られている。

 セードルフは、まだブラジルのボダフォゴでプレーしている現役の選手だ。しかし彼は、オランダサッカー協会との通信教育で監督の資格を取り、指導者となる準備を整えていたという。ただ、もちろん監督経験はない。そんな彼がなぜ指導者として熱望されるようになったかと言えば、ベルルスコーニ会長のアイディアだから。現役時代からのプレーインテリジェンスやリーダーシップを見て、『彼なら相応しい。私の目に狂いはない』と目利きが働いたということのようだ。

「オランダ風に攻撃的な4−3−3が好み」、「エドガー・ダービッツやヤーブ・スタムらをコーチ陣に招聘する可能性もある」などの報道が出ているが、入団したばかりの本田圭佑の起用法がどうなるかも含めて謎はまだまだ多い。しかしセードルフは、早ければ16日の木曜日にもミラノへ降り立つ可能性もあるという情報も流れている。ベルルスコーニの読みは当たったのか、それとも外れたのか。その全貌が明らかになるXデーは、意外と近い事になるのかもしれない。

 この激動を、本田はどう戦い抜くのか。

「本田もかわいそうに、こんな最低なチームに来ちまって」

 13日、ミラネッサ橋が開くのに集っていた年配のファンが、筆者を見るなりそう答えていた。

<了>

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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