久光製薬の世界を目指した戦い=勝ち続けるために厚みを増した選手層

田中夕子

優勝はアジア制覇への第一歩

2年連続4回目の優勝を飾った久光製薬。チーム状態がそれほど良くない中、それぞれが役割を果たしてつかんだ勝利だった 【坂本清】

 15日に東京体育館で行われた天皇杯・皇后杯全日本選手権の女子決勝、久光製薬スプリングスは岡山シーガルズを3−0のストレートで破り、2年連続4回目の優勝を飾った。優勝を決めた直後、コートでインタビューに応じた長岡望悠は人目をはばからず号泣した。

「本当に苦しい大会で、自分自身も、苦しい場面がたくさんありました」

 天皇杯・皇后杯、Vプレミアリーグ、黒鷲旗と昨シーズンは久光製薬が主要タイトルのすべてを制し、今シーズンもほぼ変わらぬメンバーで臨む。先に開幕したVプレミアリーグではトヨタ車体クインシーズにフルセット負けを喫したが、4戦を終えて3勝1敗。戦前の予想は「今季の久光も強し。天皇杯・皇后杯も勝って当然」、と見る目が多かった。

 だが、実情は違う。候補選手も含めると8名が全日本に選出され、その中の6名が8月からワールドグランプリ、世界選手権アジア予選、アジア選手権、ワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)など、代表選手として連戦に駆り出された。

 ある程度の時間をかけてチーム作りができた昨年とは異なり、開幕前に全員で練習ができたのはわずか9日のみ。さらに、体調不良やけがを抱える選手も多く、万全と呼ぶには程遠い状態で、5日間で4試合を戦い抜く天皇杯・皇后杯に臨まなければならなかった。
 加えて、絶対に負けられない理由もあった。中田久美監督が、チームに掲げた今季の目標は1つ。

「アジアクラブ女子選手権大会で優勝して、アジア一になろう」

 来年6月に、アジア各国のトップクラブが参戦する2014アジアクラブ女子選手権大会に日本代表として出場する条件は、天皇杯・皇后杯で優勝すること。アジアクラブ女子選手権は全日本の大会とシーズンが重なるため、出場権を持ちながら辞退するクラブも少なくないが、久光製薬にとっては大きな目標となる。アジアを制するための第一歩として、天皇杯・皇后杯で勝つことは絶対条件であり、使命でもあった。

序盤から思わぬ苦戦が続く

 ところが、初戦となった2回戦、松蔭大学戦では相手の勢いに屈する形でミスを連発。ストレート勝ちを収めたものの、第1セットは23−25と、辛勝だった。全日本などの影響から、過密スケジュールによるコンディション不良も、思わぬ苦戦を招いた1つの要因ではあったのだが、そんなことはお構いなし。中田監督は、バッサリ切り捨てた。

「みっともない試合をしてしまいました。お金をいただいて、バレーボールをやっている選手がやってはならない最悪の内容でした」

 翌日の準々決勝は、今季からVプレミアリーグに昇格した日立リヴァーレと対戦。エースの江畑幸子を腰痛で欠き、ベストメンバーではない相手に大苦戦を強いられたが、キャプテン石田瑞穂の活躍もあり、3−1で何とか勝利を収めた。

 グラチャンの直前に左足首を捻挫し、リーグでもここまで出場機会のなかった長岡にとっては、この試合が久しぶりの実戦だった。しかし、トスとのタイミングが合わずに体が突っ込みすぎたり、手に当たらないため狙い通りのコースにスパイクが打てず、相手にチャンスを与えるなど、手応えよりも課題ばかりが目立つ内容なのは否めなかった。その結果に、誰よりも落胆していたのが長岡自身だった。

「技術とか、足がどうとかではなくて、気持ちの問題です。とにかく攻めよう、と思っているはずなのに、劣勢になるとどうしたらいいのか、分からなくなっちゃう。勝って当然、と思われているんだろうな、とも感じていたし、『負けられない』と気負い過ぎてしまいました。自分が情けないです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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