強小軍団が直面する昇格3年目の危機=J2漫遊記2013 ガイナーレ鳥取
守護神・小針が語る「勝てない要因」
鳥取の守護神・小針清允。神戸戦では2失点したものの、随所で鋭いファインセーブを連発した 【宇都宮徹壱】
「自分たちがやろうとしていることは、やれている感じはあったし、手応えもありました。(1点リードで迎えた)ハーフタイムでは、前半やれたことはやれていると確認しつつ、後半の入りもしっかりやろうという話をしていたんです。ただ(廣田のシュートがポストを直撃した)あの瞬間、実は嫌な予感がありました。そう思っていたら、その通りになって(苦笑)。今季は多いんですよ、そういうのが」
いささか自嘲気味に語る小針だが、2つの失点を喫してしまったものの、後半には少なくとも2度のファインセーブを見せている。神戸との戦力差を考えるなら、むしろ「よくぞ2点で抑えた」と言ってもよいだろう。プロ18年目の36歳。J1からJFLまで3つのカテゴリーで、さまざまなクラブを渡り歩きながらゴールマウスを守り続けてきた、その経験値はやはり伊達ではない。だからこそ、失点してからのチームの極端なバイオリズムの低下も、小針には手に取るように把握できていた。
「失点した時、個々の選手は『まだまだいける』と思っていても、チーム全体でガクっとダメージがくる感じなんですよね。あの時点で、まだ30分以上の時間があったのに、ですよ。つまり、トータル90分での1試合でとらえるのでなく、直近の1失点でダメージを受けてしまう。(なかなか勝てない要因は)そこにあると思います。試合後の雰囲気は、もちろん重苦しかったですよ。それでも、何とか前向きに切り替えていこうという話は、選手同士でしていましたね」
鳥取への愛情と「落としてはいけない」という責任感
キャリアの晩年を鳥取で迎えようとしている小針。36歳となった今でも、その発言は常に前向きだ 【宇都宮徹壱】
「で、その年のトライアルで声をかけてくれたのが、鳥取のGMだった竹鼻(快)さんでした。『ウチは2年連続でJ2昇格を逃しているので、センターラインの陣容をしっかりしたものにしたい。他のポジションについては、ある程度は固まっている。GKのポジションで、ガイナーレで昇格のために戦ってくれないか』というようなことを言われました」
ちなみに「他のポジション」とは、MFの服部年宏と美尾敦、DFの喜多靖、内間安路など、まさに「強小軍団」と言える面々だ。GMの竹鼻は、当時34歳。大卒プロパーで入ったベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)で、フットボールクラブに関するさまざまな役職のノウハウを学び、07年に「何もない土地でイチからJクラブを立ち上げる仕事がしたい」と、それまで縁もゆかりもなかった鳥取に身を投じることになる。その後、鳥取をJ2のクラブに押し上げて以降は、東北リーグ1部だった福島ユナイテッドFCのクラブダイレクターに転じ、JFL昇格に尽力した。あくまで個人的な見解だが、現場もマネジメントも両方を見ることができる竹鼻が、もしあのまま鳥取のGMにとどまっていたら、今季の戦いはこれほど苦しいものにならなかったように思う。余談ながら、服部や美尾といった当時の主力は、竹鼻がいなくなってから次々と鳥取を離れてしまった。
話を小針に戻す。プレーヤーとして、再びJFLでプレーすることについては、やはり若干のためらいはあったと打ち明ける。しかもクラブのホームタウンは鳥取。東京育ちの当人にとっては「砂丘以外に何も思い浮かばない」土地であった。幸い、家族も一緒に来てくれることに同意してくれた。もちろん生活に不便を感じることも少なくないが、生活環境の近くに海も山も川もあり、食べ物も水もおいしいので子供たちを育てる上では申し分ない。地元の人々も排他的かと思ったら、実に親しみを込めて声をかけてくれる。気が付けば、鳥取という小さな街を、心から愛している自分に気がついたという。
今から20年前の1993年、日本で開催されたU−17世界選手権(現U−17ワールドカップ)出場経験がある小針も、そのキャリアの最後を鳥取で迎えようとしている。プロ人生で初めて、3ケタの出場数を刻んだクラブは、しかし今、泥沼の連敗街道から脱出できずにもがき続けている。「落ちることに対してのプレッシャーより、落としてはいけないという責任感のほうが今は強いですね」と語る小針。残留争いは03年の仙台でも経験済みだが(結果としてJ2降格)、J2からの降格の危機というのはベテランの彼にとっても未体験ゾーンだ。最後に、今のチームに最も必要なものは何か、問うてみる。しばらくの沈黙ののち、鳥取の守護神は自らに言い聞かせるように、こう語った。
「すごくシンプルですけど、勝利に対する貪欲さ。勝てていないからこそ、そういうメンタル面での貪欲さが必要だと思います。もちろん相手の状況もあると思いますが、まずは自分たちがやり切ることが大前提。その中で、何が自分にできるか。どうチームに貢献できるのかを考えていきたいです」
<文中敬称略。つづく>
(協力:Jリーグ)