名門復活?好調リヴァプールは本物なのか=躍進を陰で支えるジェラードの後継者

東本貢司

ベストメンバーがそろったのは一度きり

ここまで13節を終えて4位と復活の兆しを見せるリヴァプール。名門復活はあるのか 【Getty Images】

 まずは、ずばり現リヴァプールのベストフォーメーションを列記してみよう。ゴールには“今をときめく”ベルギー代表の守護神、シモン・ミニョレ。ディフェンスラインは右からグレン・ジョンソン、コロ・トゥーレ、マルティン・スクルテル、ホセ・エンリケ、中盤のアンカーには復帰したルーカス、その左右をそれぞれスティーヴン・ジェラード、ジョーダン・ヘンダソンが固め、あるいは自在にポジション移動を図る。この二人と呼応するのがトップ下の位置に入るチーム随一のテクニシャン、フェリペ・コウティーニョ。そして、2トップに破壊力抜群の「SSコンビ」、ルイス・スアレスとダニエル・スタリッジ。

 実は、ディフェンス陣に二人ほど“故障絡みの変動”があったのを除いて、この布陣でスタートした試合は、ここまでただの一度しかない。11月9日のイングランド・プレミアリーグ第11節、スアレスの2得点などで4−0と圧勝したフルアム戦だ。

 開幕から不振続きで、つい先日にはとうとう監督、マルティン・ヨルの解任という事態を迎えてしまったフルアムが相手とはいえ、その内容はまったく危なげない理想的なものだった。しかし、繰り返すが、バックライン以外でこのベストメンバーがそろったのは一度きり。そして、その事実こそが今季リヴァプールの好調の秘密を炙り出しているとも考えられるのだ。

 もし、リヴァプール悲願のプレミア初優勝が見えてくるとしたら、その最大のキーマンは2年目のコウティーニョ――というのが、開幕前の現地識者のほぼ共通した見解だった。ところが、そのコウティーニョが故障がちでなかなかフル出場が叶わない。その控え役として新しく迎え入れた(かどうかは、プレースタイルからして少々怪しいが)ルイス・アルベルトは、いまだチームに溶け込めない様子で、ここまでスタメンは一試合のみ。

 そして何よりもスアレスの問題があった。前シーズンのツケによる彼の不在期間、得点力の心もとなさをどう繕い、補うか。スタリッジは確かに頼もしいニュースターだが、負担の重さと当然予想される集中マークに調子を乱し、あげく故障でもされたら大変だ。そこで獲ったのがイアゴ・アスパスだが、開幕前の“他流”ウォームアップマッチでこそ見どころを作ったものの、明らかにまだプレミアになじめていない。

 加えて、ディフェンスも万全とはいえなかった。トゥーレがアーセナル時代(の初期)ほどやってくれるのかどうか、ダニエル・アッガーは慢性的故障持ちだ……。

戦力がそろわない中でも首位争いを演じる

 だが、リバプールはそんな「不安だらけ」の新シーズン開幕を見事に乗り切る、絶好のスタートダッシュを見せた。

 開幕3戦はいずれも苦戦を強いられながらの1−0という、イングランドでは伝統的に「最もカッコいい」勝ち方を収めている。三連勝を飾ったその極めつけが宿敵マンチェスター・ユナイテッド戦だったことが、チームを大いに鼓舞したのは想像に難くない。

 ところが、次なるスウォンジー戦では終盤で追いつかれてドロー(2−2)、さらにサウサンプトンにホームで惜敗(0−1)、続くリーグカップ3回戦はユナイテッドのリベンジに遭って無念の敗退(0−1)……過去ざっと20年間、80年代の覇者リヴァプールはそうやって頂点に届かないホゾを噛んできた。さて、今シーズンもまた同じ轍を、宿命を背負うことになるのか?

 だが、違った。ツイていたと言うのが正しいかもしれない。満を持して戻ってきたスアレスが、予想、期待以上の大活躍で再び、チームに勝ち運を呼んだ。

 行ける。いや、他のライバルチームを含めた全方向から、目の色を変えたような要注目の声が飛び交った。

「今シーズンのリヴァプールは一味違う!?」

 なにしろ、新戦力のアルベルト、アスパスが期待外れ、カギを握るコウティーニョがとても完調とはいえない中、サウサンプトンのみに後れを取っただけで(その後のサウサンプトンの大健闘を見れば決して“取りこぼし”ではなかった)、しぶとく、したたかに、また鮮やかに、首位争いを演じているのだから!

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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