名門復活?好調リヴァプールは本物なのか=躍進を陰で支えるジェラードの後継者

東本貢司

唯一全試合フル出場で好調を支える

ここまで全試合フル出場を果たすヘンダソン(左)。ジェラード(右)とともに中盤を支える 【Liverpool FC via Getty Images】

 いきおい、ブレンダン・ロジャーズ監督の株も急上昇した。2年目にして早くもチームを自分のものにしつつある。ラヒーム・スターリングの抜てきなどからじっくりと蒔いてきた種が実りつつ一方で、スタリッジ、ヴィクター・モーゼズという実戦的で伸びしろの大きい補強にも成功している。ペペ・レイナからミニョレへの移行もショック療法的な効果をもたらしたと言っていい……などなど(実は、ミニョレ獲得とレイナ放出についてはある種“誤算のドラマ”があったのだが、ここではあえて結果オーライの“不問”としておこう)。

 しかしながら、好調リヴァプール、もしくはロジャーズ好采配の、真のカンドコロは、なぜか(筆者の知る限り、現地周辺でさえ)ピンポイントで語られている節がない。

 ずばり言おう。“ファンタジスタ”コウティーニョの完全復調、もしくは真価発揮を今か今かと待ちながら、一見して「SSコンビ」の大乱舞にだけ光が当てられている中で、久しく安定したレッズの戦いぶりを支え、可能にしている陰のヒーローとは、現「ミスター・リヴァプール」ジェラードの最上の相棒、ジョーダン・ヘンダソン以外にあり得ない。

 ここまでのリーグ戦13試合を振り返ってみれば、それはもう一目瞭然だ。全試合フル出場を果たしているのはヘンダソンただ一人なのである。ちなみに、同じく全試合スタメンをキープしているジェラードは2試合で途中交代している。それだけでも、ロジャーズがいかに彼を信頼し、ピークを過ぎたジェラードを補佐する、というよりも“その座を受け継ぐ”チームの軸として期待しているかが分かろうというものではないか。

 ここで、レッズファンはかつてのシャビ・アロンソ(レアル・マドリー)を思い浮かべるかもしれないが、ヘンダソンは“その再来”ではない。アロンソに近い役割を担っているのはルーカス(もしくはジョー・アレン)であって、ヘンダソンは、やや恣意的に評するならば、彼なりの個性を持ち発散させながらも、まるでジェラードの「クローン」のような存在なのだ。

 ヘンダソンがサンダランドから鳴り物入り(日本ではそこまでの取り上げ方はされなかったと記憶するが、現地の視点ではそうだった)で加入したとき、筆者は思わず膝を打ったものである。彼が「ジェラードの後継者」だ、と。いち早く獲得を実現させた当時の監督ケニー・ダルグリーシュの腹も紛れもなくそうだったと思う。それを示唆する“証言”もあったし、実際キング・ケニーはヘンダソンをどう使うか慎重に模索していた節がある。

 ところが、ダルグリーシュ解任を境にヘンダソンの名前は控えメンバーからも漏れることが多くなり、傍目にはもはや戦力外かと見られていた……。そんな潮の流れを変えたのがロジャーズだった。そして、その英断は今、確かな手応えで報われようとしている。

年末年始を乗り切れるか!?

 1日に行われた第13節・ハル・シティー戦のショッキングな敗戦(1−3)はややもすれば「復活リヴァプール」に水を差したきらいがあったかもしれない。しかし、ヘンダソンと、同じく全試合スタメン出場中のジェラードにさしたる“事件”でもない限り、「一味違う」ロジャーズ・レッズが大きく腰を割ることはないだろう。そして、トゥーレ、アッガーに今ひとつ精彩の無い中、今やDFの柱となっているスクルテルの高い貢献度が途切れることがない限りは。

 だが、好事魔多しという。エンリケに続いて、激戦となったマージーサイド・ダービーで怪我を負ったスタリッジもしばらく戦列を離れる。時は一年で最もゲームが立て込む年末年始、ライバルに比して控え層が必ずしも厚くないチーム事情もあって楽観はできない。ロジャーズも1月の「有意義な補強」を本気で視野に入れていると聞く。裏を返せば、この期間を大過なく乗り切れば、悲願達成の可能性も膨らむだろう。

 とはいえ、まずはチャンピオンズリーグ参戦権。その“指定席”を取り戻すことに狙いを絞って踏ん張っていければ、例えば二年、三年先の栄冠も決して夢ではない。願わくば、そのときまでジェラードが今と変わらず健在であり、誇らしくプレミアのトロフィーを掲げることができればいいのだが……。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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