スペインで“背番号10”をつける10歳=タルハニ存哉君が名門エスパニョール入団

鈴木智之

バルサと肩を並べる育成の名門からオファー

スペインの名門クラブ・RCDエスパニョールに入団した10歳のタルハニ存哉君(右) 【イースリー】

 母親が仕事から帰る道すがら、大きなスキーバッグを背負った息子が、家の近所のバス停にポツンと立っていた。息子は母親の顔を見るなり、こう言った。
「ぼく、スペインに行くことに決めたから。ママにお別れを言うために待ってたんだ。スペインのチームに入って、スカウトされるようになるまでがんばるから。ママがいなくてもサッカーがあれば寂しくないから、心配しないで――」。
 そう言ってバスに乗り込もうとする息子を、母親はあわてて引き止めた。

 タルハニ存哉(アリヤ)――当時7歳。果たして3年後の2013年7月、彼の言葉は現実のものとなった。育成年代ではFCバルセロナと肩を並べる力を持つカタルーニャ地方の名門クラブ・RCDエスパニョールから、入団のオファーが届いたのである。

 リオネル・メッシをアイドルと憧れる存哉君がスペインのサッカー関係者の目に留まったのは、昨年のことだった。スペイン・バルセロナを拠点に指導者養成やチーム・選手のコンサルティングを展開する、サッカーサービス社が日本で開催したキャンプに参加したところ、かつてバルサのカンテラでボージャンやジョルディ・アルバを指導したカルレス・ロマゴサ、2008年にカルレス・プジョルのパーソナルコーチを務めていたダビッド・エルナンデスが一目惚れし、エスパニョールへ推薦。その後、2回の入団テストを受けて合格。ビザ取得後、2013年10月に公式戦デビューを果たした。

 存哉君の才能を見抜き、エスパニョールに推薦したサッカーサービス社のダビッド・エルナンデスはこう語る。
「初めてアリヤに会った瞬間、彼の振る舞いと質の高いプレーに魅了されました。われわれはエスパニョールのスカウト部門の責任者と知り合いであったことから、アリヤが現地でトライアルを受けることができないものかと提案しました。2度のテストを経て、クラブはアリヤを迎える決断をしたのです」

スペースの認知、判断力が非常に優れた選手

 ダビッドは現在、日本サッカー協会プロジェクトコンサルティングディレクターを務めるほか、2010年より、日本のジュニアからJリーガーまでの指導・コンサルティングを実施。カタルーニャサッカー協会の指導者インストラクターを務めた経験もあり、日本とスペインのサッカーに精通した人物だ。彼は存哉君のどこを評価したのか。

「アリヤの第一印象は『非常に認識能力の高い選手』というものでした。周囲の状況を把握し、必要な情報を収集した上で、適切な判断を下すことのできる選手であると言えます。具体的には、味方のサポートに入る際、状況に合わせたポジショニングに優れています。一般的に同年代の選手に見られる傾向として、ボール保持者に近づきすぎてしまったり、ボールにつられてしまうことによって、ボールを受けにくいスペースにポジションを取り、正しいポジションでサポートを行えないことがあるのですが、アリヤはスペースの変化に合わせながら、ボールを受けやすいポジションを取ることができます。自分でボールを持っている時も、いつ前に運ぶのか、相手を抜きに行くべきなのか、パスを出すのか、シュートを打つのかなど、数あるプレーの中で、正しい選択することができる選手です」

 現在、存哉君はエスパニョールのアレビンBで、背番号10をつけてプレーしている。エスパニョールの育成組織はスペインでもレベルが高い。実際に今夏、日本で開催されたU12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013で大活躍を見せた、FCバルセロナの20番アドリア・ベルナベ・ガルシア選手は、アレビンA時代(12歳以下)までエスパニョールで育ちキャプテンとしてチームを牽引した選手だ。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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