自分をさらけ出すことから始めたチーム作り=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第1回
監督就任直後に受けた“カルチャーショック”
選手と信頼関係を築くために、眞鍋監督(左)は一対一での対話を大事にしている 【坂本清】
世界的に見ても、女子バレーボールは、戦術やそれに伴う練習方法が男子より遅れていました。ですから、いち早く男子の戦術を取り入れた女子チームが、五輪や世界選手権で優勝する傾向にありました。
海外の監督は、男子・女子チームに固執せず、指導する傾向にありましたし、私も監督経験はもちろん、全日本やイタリアリーグでのプレー実績もあったので、それを女子チームにうまく取り入れれば強くできるだろうという自負がありました。
が、その考えは見事に、監督就任直後に打ち砕かれました。
体育館にずらっと並ぶ選手たちの前で、私は自信満々に監督就任のあいさつをしました。
「このチームで日本一になる!」
そう宣言し、自分がこれからやりたいことやビジョンについて、10分ほど熱弁を振るったのです。
話していくうちに変だなと思い始めました。うなずきながら聞く選手など誰一人おらず、皆ポカンとしている。早口になって聞き取れなかったのかなと思い、「分かるか?」と確認しても反応はありません。
男子選手なら、新しい監督を品定めするかのごとく、意見をぶつけてきたり、うなずいたりするなど、何かしらのアクションがあるものです。しかし、“無反応”は、一種のカルチャーショックというか、男子選手との違いを感じざるを得ない瞬間でした。想像以上に、女子選手を指導するのは難しいのかも、と……。
女子選手に上から目線は禁物
想定外だった私は、女子チームを率いる何人かの指導者の先輩に電話し、「女子の指導には何が必要なのか」を徹底して聞きました。すると、共通して「男子と女子ではメンタリティーが違う。十分なコミュニケーションを図り、相手の心をつかむことが大事だ」との声。それも、「上から目線で話してはダメ。選手一人一人と向き合う対話を心掛けることが大事」だと教わりました。
男子選手の場合、「こうしなさい」「あの方法でいきたい」という指示だけで、大概伝わります。意見が衝突し、気まずい雰囲気になったとしても、飲みに行って腹を割って話し、サウナにでも入って思いの丈を語り合えば、軋轢(あつれき)を翌日に残すこともない。でも、女子選手の場合はそうはいかない。心をつかまなければ、こちらの指示はなかなか聞き入れられないのです。一緒にサウナに入るわけにもいかないですし、ひとたび反感を買ってしまえば、「選手対監督」という構図にもなりかねず、修復にも時間がかかると、先輩方からもアドバイスをもらいました。選手一人一人と対話し、相互理解を深め、少しずつ信頼関係を築くほかないのです。
勝つために何でもやる覚悟で
マネージャーに選手たちの好きなタレントや食べ物などを聞き、共通項となる話題を仕込み、一対一の対話を試みました。確かにミーティングで話すより、一対一の方が、選手たちも心を開いてくれるような気がしました。しかし、昨日は開いてくれた心が、今日は閉じていることも……(笑)。女性のマインドは把握しづらく、試行錯誤の繰り返しでしたが、目線を合わせて信頼を築くことから始めたのです。
今回は自己紹介も兼ねてこの辺で終わりますが、こうした私の経験や思考が、女性社員を指導する立場の方や、チームを結束させ結果につなげたい方などに、少しでもお役に立てればうれしいです
また、12日からグラチャン(ワールドグランドチャンピオンカップ2013)が始まります。16年リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得するための1年目の集大成。ぜひ応援をよろしくお願いいたします。
<この項、了>
プロフィール
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪で銅メダルに導く。