竜の黄金期、第二章へ=常勝軍団再建の鍵は「競争」と「団結力」

ベースボール・タイムズ

団結と底上げなくして復活はない

記者会見で、佐々木崇夫球団社長(右)と握手する中日の落合博満GM=11日、名古屋市中区 【共同】

 ひとつ目は『現場、フロントを含めた球団での一致団結』。

「谷繁新監督をはじめ、オーナーや球団社長、コーチ、選手、裏方さん、球団職員の事務を含めた全スタッフが共通の認識を持った一枚岩にならないと、優勝なんてできない」――。これこそ中日が今季低迷した原因の本質だ。高木守道前監督が指揮を執った2年間、中日はチーム内のいざこざが度々表沙汰になるという醜態を晒した。投手起用を巡って意見が割れた高木守道監督と権藤博前投手コーチの確執に端を発し、今季にいたっては叱責した井端弘和選手をベンチ裏まで詰め寄っていく光景がテレビの中継で流れる始末。敗戦後の談話は決まって選手とコーチを名指しで批判――。日を追うごとに高木監督が孤立していく様相は濃くなっていき、最後までチームとしてのまとまりを感じられなかった。
 すでに、崩壊寸前のチームを再建する手始めとして、まずはフロントとの意思統一を図っている。就任会見が行われた同11日、会見後に佐々木崇夫球団社長や西山和夫球団代表ら球団首脳との会談はおよそ7時間にも及んだ。会談を終えた佐々木新社長が「過去の経験を話していただいて、勉強になりました」と感想を述べたことから、落合GMはプロ野球選手としての経歴がないフロント陣にもその考えを懇切丁寧に説いていた。選手やコーチの“現場”だけで野球をするのではなく、フロントを含めた球団全体に進むべき方向性を共有することでチームを一体化させようという本気度の表れ。それは自身の監督時代の同じ轍を踏まないためではないだろうか。今後はさらに谷繁新監督の意向を踏まえながら、結束力はより固められていくに違いない。内輪揉めで自滅していたチームが勝利という目標の下に統率され、戦う集団としてのあるべき姿を取り戻すことが常勝軍団復活の最初の足掛かりだ。

 そして、2つ目は『完全実力史上主義のもと、競争による戦力の底上げ』だ。

「日本人選手が外国人選手にレギュラーを取られれば、『なんで日本人選手を使わないんだよ、若いヤツいっぱいいるのに』ってファンの方は言いますけども、あくまでこれは競争です。与えられた選手はここ一番で必ず弱みを出してしまうんです」。

 落合GMのこの持論は監督時代から展開していたものであり、今回もその方針は変わっていない。谷繁監督も「チーム内で実力のある人が試合に出る。ベテランには配慮をしても、ひいきはしない」と同意見を示している。中日が常勝軍団であり続けた要因として、常にチーム内の競争によって勝負強い選手が育っていた。その結果、レギュラーメンバーの高齢化と若手の伸び悩みが問題視されたが、連覇を成し遂げた2年間はいずれもシーズン終盤の勝負強さでペナントを勝ち取った。しかし、2年前とはチームの状況が変わってきていると落合GMは分析している。

「現在、これと言って実力が突出した選手はゼロと言った方が正しいでしょう。だから、面白い戦いになると思いますよ。今まで出ていたレギュラーのメンバーとの競争で若い選手が追い抜くことで初めてこのチームは復活します。でも、あくまで競争社会。年齢じゃないんです。若いのが出てきたからベテランは控えに、なんてこともありません」。

 若手がベテランを超える、ベテランが意地で若手の突き上げをはねのける――。どちらになろうとも、激しい競争を勝ち残った戦力がそろう屈強な集団となっているはずだ。

未知数の谷繁監督×実績の落合GM 生み出される期待値

 谷繁監督、落合GMのどちらも初めての要職に就くのだが、二人は当然のように優勝を宣言した。谷繁監督の采配は未知数だが、落合GMは「オレは谷繁に期待する価値は十分にあると思う。監督は横からしか見られないが、捕手は投手も内野手も外野手も自分が選手を見ながらプレーをできるただひとつのポジション。我々の分からないことが、25年間やってきた谷繁だけには見えている。他の人よりも、オレが一番期待している」と、絶大な期待を寄せている。
 また、落合GMはチームに不足している戦力、ポジションを見極め、他球団を見渡して補強に動く。監督として指揮を執っていた8年間、主力の故障や移籍がありながら一度もAクラスを外れたことがなかったのは、その穴を最小限に食い止める補強とチームづくりに長けていたからだ。現時点では推し測ることのできない未知なる谷繁監督の采配力と、確かな実績を残してきた落合GMの編成力にライバル球団も脅威を感じるはずだ。

 さかのぼること優勝争いの佳境を迎えていた2年前、当時のフロント陣が「チームに新しい風を入れる」と打ち立てた不可解な理由によって、常勝軍団は強制的に輪を解かれた。その結果が大きな間違いであったことはこの2年間で白日の下に証明され、一時代を築いた竜の黄金期は終焉を迎えた。このまま衰退の一途をたどりかねない窮地に、白井文吾オーナーが下した英断――。黄金期を創設した落合博満を呼び戻し、球団史上最高の名将がゼネラルマネージャーの新たな立場でチーム再建に手腕を振るい、指揮官にはその名将が認めた球界最高峰捕手・谷繁元信をリーダーに据える。この新たな歩みは、“竜の黄金期、第二章”の幕開け。今はただ、そのことを信じて疑わず、来季に心を躍らせるばかりだ。

<了>

(高橋 健二/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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