17歳“ひねりのシライ”が描く青写真=鮮烈デビューはリオ、東京へと続く第一歩
ゆかで金メダル、跳馬は4位
種目別に出場した白井はゆかで金メダル、跳馬は4位。2つの新技に「シライ」の名をつけるなど、鮮烈な世界デビューを飾った 【Getty Images】
ベルギーのアントワープで行われた体操の世界選手権。予選で披露した2つの新技に「シライ」の名をつけた白井健三(神奈川・岸根高2年)は、大会最終日に行われた種目別の跳馬で、自らの名のついたその技、「シライ/キムヒフン=伸身ユルチェンコ3回ひねり」をまたしても成功させた。
着地の際にわずかにラインオーバーしたが、空中で見せるひねりに関しては、むしろ予選のとき以上の出来栄え。
「今までで一番ひねりきることができていたと思う。ラインオーバーがあったけど、最後の開きまでしっかり見せることができた」
そう言って、今大会中に何度も見せてきた屈託のない笑みを、また浮かべた。
跳馬の決勝は2つの違う技を跳び、その平均点で成績が決まる。白井の場合は2本目の技の難度がトップ選手に比べてやや低いため、惜しくもメダルには届かなかった。ただ、6位だった予選より2つ順位を上げたのは立派だ。
「予選が6位通過だったので順位は気にしていなかった。それより、他の選手がすごいなと思って見ていたし、2本目の演技を予選よりかなり高く評価してもらったので、十分に満足しています」
金メダルを取ったゆかに続くメダル獲得はならなかったが、悔しがる様子を見せることもなく、結果を素直に受け止めた。
2つの新技に「シライ」の名
日本体操協会によると、日本選手の新技命名は、2000年シドニー五輪代表で現在は順天堂大監督として加藤凌平らを指導している原田睦巳さんが、1999年の世界選手権の平行棒で発表して以来、14年ぶりという快挙。だが、白井本人に“命名へのこだわり”はない。
「自分のできる技で一番高い難度のものを入れようとしたら自然に名前のつく技が入ってくる」と言う。それが、ゆかの4回ひねりであり、跳馬の3回ひねりであり、シライの名がつくということなのだ。
白井はなぜすごいのか。第一の要因は、大舞台でも物おじせず、常に自分の力を出しきる図太さを持っていることだ。
「試合で緊張したことはないですね。雰囲気にのまれてしまったという経験がありません。今までで一番緊張したのは東京五輪の招致が決まる発表のときかな。あのときは本当にドキドキしました」
この言葉通り、金メダルを期待する周囲の声を聞いても「(技の難度を示す)D得点は僕が一番高い。自分の演技をちゃんとできれば勝てるかなと思うので、そんなに不安はないです」と、驚くほど冷静に状況を見つめていた。「世界選手権ではゆかと跳馬の2種目だけですから、6種目やるインターハイに比べると楽です」とさえ言っていた。
強さの源となっているもう一つの要因はやはり「ひねり」のセンスだ。
横浜市の鶴見体操クラブで代表を務める父・勝晃さんが編み出した特注トランポリンで、幼少時からひねりの感覚を磨いてきた。白井のひねりはスピードが特徴。161センチ、50キロという細い体には十分な筋力は備わっておらず、脚力自体も大人のそれとはまだ差がある。だが、普通の選手が3回ひねる時間で4回ひねってしまうのだ。もちろん、軸を正しく保つ感覚も図抜けている。
23歳で迎える東京五輪は引っ張る存在
「19歳で迎えることになるリオデジャネイロ五輪は、たとえ出場できたとしても若手でチームについていくという立場だと思います。でも、23歳になっている東京での五輪では、チームを引っ張る存在になっていると思います」
体操界には「23歳が選手としてベストの年齢」という“定説”がある。体が出来上がり、筋力がつき、経験値も備えているという年齢。内村航平(コナミ)がロンドン五輪で金メダルを獲得したのと同じ23歳で迎える東京五輪での姿までイメージをし、しかもそこまでの青写真も持っているのが白井なのだ。
「今回の世界選手権では、“ひねれる白井”というものを審判に見せることができたと思いますが、来年はイメージチェンジをしていきたい。ひねりだけではなく、回転技も取り入れていきたいと考えています」
見ている側にサプライズを与え続けることの重要性をも悟っている17歳。10代を代表するヒーローとなった彼が持つポテンシャルは、計り知れない。
<了>
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