酷暑を乗り切った甲府独自の調整法=チームを支えたフィジカルコーチの存在
トレーニングのしすぎはコンディションを落とす
新戦力のパトリック(写真)らの活躍もあり、甲府は8月以降に勝ち点を積み重ねた 【Getty Images】
続く、木、金曜日は対戦相手にあわせたトレーニングを1時間程度実施。プラスアルファのトレーニングとして、守備陣を中心に1対1の対応に必要な動きのキレを出すために、「タニラダー」(谷が考案したラダー器具)を使って10分ほどステップワークの練習を行う。1週間トータルの練習時間は6時間ほど。極めて短い時間だが、練習の質を高めることで量の少なさをカバーした。
「日本では、長時間練習をすることが良しとされる風潮があります。しかし、トレーニングの目的は『試合で最高のパフォーマンスを発揮する状態を作ること』であって、量をこなすことではありません。手段と目的をはき違えると、トレーニングのしすぎで回復が間に合わず、夏場にコンディションを落として負けを重ねるという、負のスパイラルに陥ることにもなります。実際に昨年の夏、そのような状況になってしまった他のJクラブのフィジカルコーチに、相談を持ちかけられることもありました」
そのとき、谷は「LBMの数値を測ってみた?」とたずねたという。LBMとは「除脂肪体重」の意味で、体重から脂肪を除いたもの(筋肉や内臓器官、骨などの量)を表す。ヴァンフォーレの選手たちは毎日体重を計って記録しており、筋肉量が低下しないようにトレーニングや食事の量、休息の時間を自己管理している。
「8月以降、チームの調子が上がった時期のLBMを過去のデータと比較すると、大幅にアップしていました。通常、酷暑の時期は疲労や暑さで食欲が減退し、筋肉量が低下するのですが、トレーニングの量と質をコントロールし、休息に多くの時間を費やすことで、筋肉量をアップすることができました。
日本には、部活動の名残から、『夏=強化期』という間違った考え方があります。消耗の激しい時期に走りこみや練習で選手を追い込み、筋肉量が落ちたままトレーニングを重ねるのが、果たして選手のためになるのでしょうか。それは、我々のようなトップリーグに関わる人間が声高に発信していかなければいけないと思います。強化とは、選手をやみくもに走らせることでもなければ、追い込むことでもありません。選手のパフォーマンスを上げることであり、フィジカル面で言うと、筋肉量を増やすことです。
育成年代の選手でよくあるのが、夏場にトレーニングをしすぎて回復が間に合わず、それがケガにつながり、大事な秋の試合に出られないケースです。指導者も選手も、長時間トレーニングをすれば、『今日もよくトレーニングをした』という満足感を覚えるものですが、トレーニングの量にあった食事や休息をしっかりととり、身体が回復しているか、までを考える必要があると思います。トレーニングの量に対して食事の量が追いつかなければ、体重や筋肉量は減っていきます」
8月以降の好調でJ1残留が見えてきた
消耗戦だった厳しい夏を経て、秋の気配を漂わせつつある10月。谷は酷暑の名残を思わせる日焼けした顔で、自信に満ち溢れた笑顔を見せる。
「だいぶ涼しくなってきたので、プレーのスピードもアップしてきました。選手たちの身体も、見違えるほど動くようになっています。これからも良い状態を保っていけるようチームで取り組んでいきます」
10月3日時点でヴァンフォーレ甲府は15位と、J1残留に向けて予断を許さない状況にある。果たしてコンディション同様、順位も上昇させることができるのか。シーズン終了まで残り7試合。J1初年度の目標である残留に向けて、チームの底力が問われることになる。
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