急速な成長を遂げた長友佑都の攻撃力=新指揮官との出会いが起こす“化学変化”
戦術面で格段の進化を遂げる
アシストの場面でも同様だ。サッスオロ戦では数々の駆け引きを経て対面のサイドバックを前に引き出し、相手が張り付いたところでダッシュし裏を取る。そこに後方からパスが入り、これをロドリゴ・パラシオへと供給した。動きの質は、サイドが入れ替わっても変わりはない。右ウイングバックで出場したカリアリ戦では、パラシオにボールを預けるとすぐさまゴール前へと鋭角にダッシュ。DFラインの裏をきれいに取ったところにスルーパスが入り、マウロ・イカルディのアシストへつながった。
守備もまたブラッシュアップされている。相手が3トップを取れば、自然に最終ライン加わり4バック的に機能。第3節(9月14日)のユベントス戦では着実なポジショニングによって、スティーブン・リヒトシュタイナーが攻め上がるスペースを未然に消している。対人への対処も変わり、高い位置から体を当てて、エリアから遠いところで相手の攻撃を断ち切る動きも増えた。その結果イエローカードも3枚と多いが、「監督からはアグレッシブな守備を求められているし、警告を怖がっていても守備はできない。世界で闘う上で(球際の強さは)求められると思うし、激しさが出てきたのは自分の中で評価している」と長友は語る。
元指揮官も活躍に太鼓判を押す
「インテルに移籍してからはコンディションが良くなく、私から見れば全然走れていない時期もあった。しかし今季は非常に良くなっている。スピードがあり、細かいダッシュを90分間続けられるのがユウトの強みであり、そこがうまく生かされている。チェゼーナからビッグクラブへ送り出せた選手が主力として頑張れていることを、私は本当にうれしく思っている」
そう目を細めて、教え子の活躍を見守るフィッカデンティ。指揮官が変わっても信頼を勝ち取り、貪欲に成長を続ける長友の資質は、精神面にこそあると彼は強調した。
「日本人の技術レベルは高い。Jリーグからは楽しみな若手が次々出て来るし(筆者注:フィッカデンティは日本通)、ドイツでも多くの選手が活躍している。ただイタリアはプレッシャーがキツい。フィジカルコンタクトもそうだし、何よりファンやメディアから受ける重圧が厳しく、勝利と敗北では雰囲気に天と地ほどの差がある。だから選手には気持ちの強さが何より必要で、そしてユウトにはそれがある。これまで日本人選手の多くは気持ちの問題でセリエAに失敗したが、彼は向上心を保ち続けたから今があるんだ。この成功が一つのモデルとなり、新たに続く選手が現れるはずだよ。ユウトは門を開いているのだから」
ビッグクラブ特有のプレッシャーの中で、『世界一のサイドバック』を目標にあくなき努力を続ける彼が、卓越した指導理論を持つ指揮官と邂逅(かいこう)を果たした今シーズン。その結果、序盤戦では早くも著しい“化学変化”が起こった。これが今後、インテルにどういう成功をもたらし、そしてブラジルワールドカップに向け、何を日本代表に還元するのか。長友の成長からは目が離せない。
<了>