永遠に語り継がれる背番号「42」と魔球=NYの守護神リベラは時を超える伝説に

杉浦大介

リベラの勇姿を、ベースボールを愛する人々は忘れない

 これほどの大投手が春季キャンプの時点で引退を発表したため、今シーズンは全米規模の“お別れツアー”の舞台となった。地元のみならずアウェーでも様々なイベントが催され、リベラにトリビュートビデオやプレゼントが贈られている姿を目にしたファンは多いはずだ。
 あくまで個人的な感情だが、スーパースターが開幕前にわざわざ引退を発表する風潮はどうも好きになれない。どこに行ってもその選手の話題、イベントばかりになり、本人もチームメートも肝心の試合に対する集中力が削がれかねない。リベラが今季キャリア最多のセーブ失敗7度を記録したことに、“引退ツアー”のタフな日程もあるいは影響していたのではないか……。
 それでも、こんなツアー、セレモニーを行なうに値するMLBプレーヤーがいるとすれば、それはリベラ以外にいないのだろう。クローザーとしての実力の見事さだけではなく、敬虔なクリスチャンで、記者、同僚、関係者、ファンはおろか、対戦相手からの尊敬も集めた好漢。そんなリベラにとって、開幕前の引退発表も、「踏ん切りを付けて、各地でお世話になった人々にお礼が言いたい」という純粋な気持ちの表れだったに違いない。

 9月26日のレイズ戦――。ヤンキースタジアムでの最後の登板を迎えたリベラは、9回2死、旧友ジーター、ペティートに迎えられて聖地のマウンドから下りた。人目も憚らずに号泣する守護神を見て、スタジアムに駆けつけた多くの人々がもらい泣き。鳥肌が立つようなドラマチックな演出とともに、パナマ産の奇跡の物語は感動的な最終章を迎えた。
「(マウンド上で)感情の波に襲われてしまった。すべてが実感できたんだ。これが最後なんだとね」
 そんなシンプルな言葉を残して去って行ったリベラの勇姿を、ベースボールを愛する人々は簡単には忘れない。

 マウンドから姿がなくなっても、背番号42の残像が消えることはない。通算652セーブという途方もない記録も、おそらく2度と破られはしない。そして、あの空前絶後のカット・ファーストボールも、多くの野球人たちの記憶に残り、語り継がれることによって、いつしか時を超えて行くのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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