川村亮に聞いた「パンクラスって何?」=20周年記念大会直前インタビュー

中村拓己

「見た人たちが判断してもらえればいい」

ミドル級キングオブパンクラシストの川村が果たして20周年大会で観客にどのようなインパクトを与えるのか 【t.SAKUMA】

――20周年記念大会ではパンクラス旗揚げメンバーの高橋選手と対戦することになりました。川村選手はリング上の挨拶で「3つの時代がある」とお話されていました。改めてのその3つの時代について聞かせてもらえますか?

 パンクラスもいろいろと変わっているじゃないですか。鈴木さんや高橋さんが掌底でやっていた時代があって、総合格闘技としてグローブ着用でラウンド制になった時代、そして“世界標準”を掲げた今の時代。それぞれの時代がかぶっているところもあるんですけど、僕は大きく分けてその3つの時代になるのかな、と。僕は最初の時代を経験はしていませんが、道場に入門してパンクラスismとして戦っている選手としては最後かもしれません。

――意外なことに川村選手が酒井(正和・社長)体制になってパンクラスで試合をするのが初めてだそうですね。新体制のパンクラスをどういう目で見ていましたか?

 いろんな意見があるとは思いますが、僕は“世界基準”というコンセプトはすごくいいものだと思います。僕らが若いころは結果を出せば外国人選手と戦わせてもらっていましたが、僕が代表だった時にはそういう機会がほとんどなかったので。

――酒井体制になる前には選手兼団体の代表として活動している時期もありました。現体制では1人の選手という立場に戻ることになって、それまでと格闘技やパンクラスへの向き合い方は変わりましたか?

 はい。それはもちろん変わります。今までは「パンクラスのために」というのがデカかったので。最近ふと思うんですけど、もちろん試合はお金を稼ぐためにやるし、自分のためにやるもの。じゃあ今は自分のためだけにやっているかと言われたら、まだその答えは見つかっていません。それを見つけるために海外でも試合をしたし…でもどうなんだろう、無理に答えを出すものでもなくて、答えを出したからどうだって話じゃないですか。いずれにせよ僕は自分のためだけに頑張れる人間ではないかもしれません。

――パンクラスは旗揚げから体制を変えながら20周年を迎えることになりましたが、その中で変わらないものもあると思います。川村選手はパンクラスismのメンバーとして、体制が変わっても変わらないパンクラスの理念とは何だと感じていますか?

 去年の6月、僕は「パンクラスは続けることだ」と言いましたが、そもそも答えなんてないんじゃないかなと。「パンクラスとは何ですか?」と聞かれても答えられるものではないし、それはパンクラスを見た人たちに判断してもらうことだから、人それぞれです。だから記者の方はそれを聞くのが仕事だと思うのですが「パンクラスとは何ですか?」と聞かれると「パンクラスって分からないでしょ?」と思ってしまいます。実態としてパンクラスという団体・興行はありますけど、僕らにとってパンクラスは“もの”ではない。もし「人生とは何ですか?」と聞かれても答えられないじゃないですか。それと同じ感覚ですよね。僕は小学校のころからパンクラスを見て憧れ続けてきて、僕は今でも試合するたびに毎回思うんですよ。「俺、パンクラスのリングに立ってるんだな」って。正直、パンクラスは終わりかけたこともあるわけじゃないですか。それでも僕はパンクラスで戦い続けている。そういう想いって“もの”じゃないですよね? 今のアマチュアから育ってパンクラスで試合をしている選手たちに「それはな…」と言ってもポカーンでしょう。だからやっぱりそれはパンクラスを名乗っている僕らだけしか持てない、物体ではない何かなんです。なかなか質問への答えとしては難しいのかもしれないですけど。

「高橋さんを倒せるのは僕しかいない」

「高橋さんの介錯をするのは僕しかいない」と公開練習にも気合が入る 【中村拓己】

――改めてですが20周年記念大会で旗揚げメンバーの高橋選手と戦うというのは運命的な相手だと思います。しかも高橋選手はこの試合を最後に引退すると宣言して、川村選手を指名しました。

 僕しかいないでしょう、あの人を倒せるのは。この試合を最後に引退すると言っている高橋さんに「俺まだやれんじゃないか?」と思わせたらダメで、現役への未練をひとかけらも残しちゃいけない。高橋さんが「俺が勝った場合、引退は撤回する」と言っているのはそういうことだから。

――川村選手にとっては先輩でもあり、一時はトレーナーも務めていた存在です。自分に近い人間を敵と認識するのは難しくはないですか?

 僕らはプロだし、本当の闘いはリング上だけですからね。仲良しでやっているわけではない。どうでもいい人間だったら、そこまでは思わないでしょうけど、僕にとって高橋さんはそういう人間ではないですから。高橋さんにはここ2〜3年は指導もしていただいて、最初に僕に“戦う気持ち”を吹き込んでくれたのは鈴木さんで、次は高橋さんです。その人が僕を相手に引退をかけた戦いを望むのであれば、僕は全力を持って叩き潰すだけです。

――そして今回は対戦相手はもちろん、川村選手が言うように3つの時代の戦いでもあります。川村選手はどんなものを見せたいと思っていますか?

 どの試合、どんな時でも「俺の試合が一番面白いんだ」という自負がないと、僕はプロとして違うと思っています。それにはいろんな見せ方があると思うんですよ。でもやっぱり一人でも多くの人間の心を動かさないといけない。勝った負けたもあるし、勝って心を動かすことがあれば、負けて心を動かすことがある。そういうところじゃないですかね。僕らと言ったらおかしいかもしれませんけど、パンクラスで育った人間はそこを意識しています。その人間たちはどんどん少なくなるわけじゃないですか。それでも僕らは結果も残さないといけないし、そういう中でパンクラスを見てきたお客さんが次の大会を見てどう思うか、だと思います。

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著者プロフィール

福岡県久留米市出身。プロレスファンから格闘技ファンを経て2003年に格闘技WEBマガジンの編集部入りし、2012年からフリーライターに。スポーツナビではその年の青木真也vs.エディ・アルバレスから執筆。格闘技を中心に活動し、専門誌の執筆、技術本の制作、テレビ解説も務める。

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