メイウェザーが見せた最強王者の力量=今後も語り継がれる大興行での圧勝劇

杉浦大介

大人と子供の戦い…序盤に主導権を掌握

メイウェザーは序盤から持ち味であるスピードを生かした動きで主導権を握った 【Getty Images】

「まるで大人と子供が戦っているかのようだ」
 試合中盤にはそんな声も記者席から飛び交ったほどの、フロイド・メイウェザー(アメリカ)の圧勝劇だった。
 9月14日、米国ラスベガス。“近年最大のビッグファイト”と言われたメイウェザー対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)のWBA・WBC世界スーパーウェルター級王座統一戦は、蓋を開けてみれば無敗の5階級制覇王者メイウェザーの独壇場に終わった。

 立ち上がりからいつも以上に軽快に動いたスピードスターは、序盤にあっさりとペースと制空権を掌握。緊張からか動きが固かった23歳のアルバレスを完全に空転させ、思うままにジャブをヒットさせて行った。
 意を決したメキシコの若武者が前に出てパンチを振り廻すシーンもあったが、“歴史的”とまで評されるディフェンス技術でまったくクリーンヒットを許さない。中盤ラウンドにはメイウェザーが逆に強烈な右のパワーパンチを打ち込み、格の違いを見せつけることになった。

「とにかくパンチを当てることが出来なかった。(メイウェザーは)とても捉え難く、知的なファイターだった。終盤のラウンドにはフラストレーションを感じ、彼の勝ちだと思った。メイウェザーは偉大なファイターだ」
 この一戦前まで42勝(30KO)無敗1分と快進撃を続けて来たアルバレスも、試合後にはそう語って完全に脱帽だった。

 3人のジャッジのうち1人がドローと採点し、2−0(117−111、116−112、114−114)のマジョリティ・ディシジョンと発表された際には場内から失笑が漏れたほど。実際にはメイウェザーが明白に失ったラウンドを探すのは難しく、ESPN.comは120−108のフルマーク、APは119−110、筆者は118−110で45戦全勝(26KO)の最強王者を支持していた。

メイウェザーの最低保証額が41億円の大興行

歴史に残ると言われるディフェンス技術でアルバレスの強打をほとんど封じたメイウェザー 【Getty Images】

 この試合開始のゴングが鳴るまで、前評判の高さと、会場となったラスベガスのMGMグランドガーデンの盛り上がりはかなりすごいものがあった。ボクシングが盛んなアメリカ、メキシコを代表する無敗王者同士の直接対決であり、36歳と23歳の新旧対決。スピードと守備力が自慢のメイウェザー、馬力と一回り大きな体格が魅力のアルバレスと、タイプ的に正反対の選手の激突ゆえ、コアなスポーツファンにとっても垂涎のマッチアップと言われた。

 試合はボクシングの範疇を越えた話題を呼び、350(約3万4770円)〜2000(約19万8680円)ドルのチケットはあっという間に売り切れ。結果として、試合前日の公開計量会場にまで1万2000人以上のファンが詰めかけるという前代未聞の事態に発展した。
 祭りの主役を務めるメイウェザーのファイトマネーは史上最高の4150万ドル(約41億2261万円)、カネロは1200万ドル(約11億9208万円)。これらはあくまで最低保証額に過ぎず、ケーブルテレビのペイ・パー・ヴュー(PPV)売り上げの歩合が加算されることになる。そしてこのPPV購買数も6年前のメイウェザー対オスカー・デラホーヤ戦で記録された史上最多の245万件に迫ると予想されるなど(集計発表は来週以降)、さまざまな意味で超特大スケールの興行となった。

「私たちは今週、ボクシングファンに最高のショウをお届けする義務がある」
 そう息巻いたゴールデンボーイ・プロモーションズ(メイウェザーと提携関係にある)のリチャード・シェイファー社長は、実際に素晴らしいファイトウィークを私たちに提供してくれた。ラスベガスには最高潮のBuzz(興奮した噂話)が漂い続け、“眠らない街”はボクシング一色。まさに歴史に残る規模の大興行であり、2013年のメキシコ独立記念日ウィークの盛り上がりは今後も語り継がれて行くことだろう。

相手探しに苦労しそうな今後の最強王者

アルバレスとの一戦に圧勝し、今後の相手探しが大変になった現役最強王者メイウェザー 【Getty Images】

 ただ……このボクシング界を挙げてのカーニバルが終わった後、ファンが鮮明に記憶しているのは、メイウェザーの圧倒的なまでのうまさ、速さばかりなのではないか。
「もう現役17年目だけど、俺はまだまだ絶好調だ。もっとプレッシャーをかけて行けばKOも出来ていたかもしれないけど、いずれにしても自分のパフォーマンスには満足しているよ」
 試合後には傷もない顔でそう語ったメイウェザー。1998年にWBC世界スーパーフェザー級王座を獲得以降、ライト級、スーパーライト級、ウェルター級、スーパーウェルター級と階級を上げても無敗を守って来た天才ボクサーは、36歳を迎えても衰えを感じさせない。
 最新の圧勝劇の後で、今後は対戦相手探しに少々苦労することになりそうである。アルバレス戦でこれだけ派手な大興行を成功させた後だけに、これから先もそれなりにネームバリューのある相手が求められるはず。

 しかし、一時はメイウェザーに匹敵するほどの商品価値を誇ったマニー・パッキャオは、昨年6月、12月に2連敗を喫して失速。所属プロモーションが異なる事情もあって、全世界待望のカードと言われたメイウェザー対パッキャオ戦はもはや現実的ではない。14日のセミファイナルで27戦全勝(16KO)を守ったダニー・ガルシア、イギリスの英雄アミア・カーンらも候補になるが、彼らとメイウェザーが戦ってもインパクトにはやや欠ける。キャラクター的に被る風雲児エイドリアン・ブローナーも、現時点では力不足。そうなるとメキシコではアイドル的な人気を保つアルバレスとの再戦が依然として最も手っ取り早く稼げる手段となるが、この日のワンサイドゲームの後では一般的な希求力に乏しいだろう。

 だとすれば……メイウェザーはこれから先にいったいどこに向かうべきなのか? 米ケーブル局「Showtime」と結んだ6戦2億ドル(約198億6800万円)契約(金額は推定)の2戦目を消化したばかりの王者は、来年5月にも再びラスベガスのリングに戻って来る意向という。しかし、その行く手に、戦うべき“宿敵”の姿は残念ながら見えない。次なる“垂涎のマッチアップ”も見当たらない。
“近年最大のビッグファイト”もほぼ無傷のまま突破。ウェルター級周辺を制圧する現役最強王者は、その群を抜いた力量のおかげもあって、しばらくは無人の広野を走ることを余儀なくされるのかもしれない。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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