56年ぶり五輪つかんだ東京の勝因=IOC委員の心をつかんだ完璧な招致活動

高樹ミナ

最終プレゼンでスピーチした7人。安倍首相(中央)をはじめ、それぞれの立場でIOC委員に東京をアピールした 【Getty Images】

 ジャック・ロゲIOC(国際オリンピック委員会)会長が手にした真っ白なカード。そこに表れた「TOKYO 2020」の文字。その瞬間、東京招致団の喜びが大爆発した。約2年に及んだ2020年オリンピック・パラリンピック招致が最高の形で決した瞬間だった。招致を勝ち取ったのは、東京(日本)。イスタンブール(トルコ)との決選投票で60票を獲得し、見事、56年ぶり2回目の開催都市に選ばれた。優勢と見られていたマドリード(スペイン)は1回目の投票でまさかの落選。「最後まで分からない」と言われていた今回の招致レースを象徴する幕切れだった。
 敗北を喫したコペンハーゲン(デンマーク)でのIOC総会から4年。16年招致活動に参加した立場から、今回東京が成功を収めた勝因を振り返ってみたい。

懸念を払拭した東京の最終プレゼン

「安全・確実」な開催を終始打ち出した東京は、ブエノスアイレス(アルゼンチン)入りしてから大きな逆風に直面していた。最後の最後に浮上した福島第一原発の汚染水問題。IOC委員の懸念を払拭(ふっしょく)するには福島の現状と今後のロードマップを具体的な数字とともに示し、委員たちを説得しなければならない。その役割は国の代表である安倍晋三首相に託された。

 期待に応えた安倍首相はプレゼン後の質疑応答でIOC委員から出た汚染水問題の質問に対し、WHO(世界保健機関)の基準に照らし合わせた具体的な数字を明示。「東京は安全。食べ物も水も高い安全基準を満たしている」と力強く断言した。問題を抱えていたとしても、その解決に向け、国を挙げて真剣に取り組んでいく姿勢をIOCは見ていると言われる。それが本当ならば、安倍首相の回答はパーフェクトだったと言えるだろう。

 計画性のある内容に加え、IOC委員のハートに訴えるエモーショナルな演出も効果的だったように思う。「震災支援のお礼」と称して現地入りされた高円宮妃久子殿下が前半部分をIOCの公用語であるフランス語で話され、五輪精神に敬意を表されたことは、多くのIOC委員の共感を呼んだのではないだろうか。

 そして、太田雄貴選手(フェンシング)とパラリンピアンの佐藤真海選手(陸上)の訴えは、大会の主役であるアスリートの声を代弁し、滝川クリステル氏(招致“Cool Tokyo”アンバサダー)がジェスチャーを交えて語った「おもてなし」の精神も秀逸だった。
IOC総会直前、「今回は最終プレゼンテーションが非常に重要」とトーマス・バッハ副会長が語っていたが、東京のプレゼンテーションは他都市に比べ、その完成度が頭一つ抜けていた。

基礎票の拡大を成功させたロビー活動

 今回の投票結果の推移を見ると、東京は第1ラウンドで有効投票数94票の過半数に迫る42票を獲得。第2ラウンドでは、落選したマドリードの28票のうちの18票を上積みし、60票を獲得して招致を勝ち取った。4年前の16年招致では、第2ラウンドでも20票しか確保できなかったことからすると、基礎票を倍以上拡大させたことになる。

 この数字の伸びは最終プレゼンテーションだけで獲得できるとは到底思えない。開催計画書の質を向上させた招致委員会の計画書策定グループと、何よりもIOC委員一人ひとりと面会し、東京支援のためにさまざな働きかけを行ったロビーチームの功績が大きかったものと想定できる。特にロビー活動の先頭に立った竹田恆和・招致委員会理事長(IOC委員)、水野正人・招致委員会副理事長の長年の努力に敬意を表したい。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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