日本サッカーを発展させるメンタル強化=大儀見浩介氏が語る“心”の重要性

鈴木智之

自発性を促す環境作り

メンタルトレーニングの重要性を説く大儀見浩介氏。講習会を実施するために日本中を飛び回っている 【Daisuke Hiraki】

 大儀見氏のメンタルトレーニングは応用スポーツ心理学の学術的背景をベースに、独自の実践と方法論を積み上げてきたものだ。昨年の全国中学校サッカー大会で準優勝した静岡県の東海大学付属翔洋高等学校中等部では、10年以上に渡って、多感な時期である中学生のメンタル面をトレーニングし、「自分で考え、行動する」選手の育成に力を注いできた。また、高校サッカー選手権の常連校や、中学年代の強豪街クラブとも契約し、『メンタルトレーニング・アドバイザー』として、選手向けの講習会を定期的に実施している。

 いまはサッカーを始めとするスポーツ少年団(クラブ)の指導者から、「保護者向けの講習会をしてほしい」という依頼が増えているという。「育成年代のクラブの場合、指導者と保護者の関係性が重要になります。指導者も保護者も、『子どもたちを良くしたい』という思いは一緒。しかし、お互いにコミュニケーションがとれていないと、意思の疎通がうまくいかなくなり、ときに保護者が現場に介入することがあります。また、保護者が良かれと思ってしたことが、指導者からすると迷惑だったり……。そこで私は講習会を通じて、『子どものためのより良いサポートは何か』について、お話をさせていただきます。指導者と保護者が同じ方向を見て、『子どもにとってベストなサポートは何か?』について、一緒に探っていきます」

 メンタルトレーニング講習会を実施するため、日本中を飛び回っている大儀見氏。メンタル面から見て、日本のサッカー界をレベルアップするためのポイントはどこになると考えているのだろうか。

「サッカーは選手の自立が求められるスポーツです。ピッチに入れば、指導者や保護者の顔を見て、指示を仰いでいる時間はありません。特にサッカーは自分で考え、判断することが重要です。指導者の顔色をうかがいながらプレーする選手だと、力を発揮できないわけです。そこでポイントになるのが、指導者が選手にあれこれと命令をしてやらせるのではなく、選手自らが進んで『やろう!』と思える環境を作ること。これに尽きると思います」

プロセス思考の選手が最後は伸びる

 サッカー界では「ボトムアップ理論」(指導者が上から押し付けるのではなく、選手自身が伸びようとする力を養うため、選手主体の環境を与えること)が注目を集めているが、大儀見氏の考えも非常によく似ている。

「うちの奥さん(大儀見優季)もそうなのですが、自分で考える力を持つ選手が、最終的には伸びていきます。試合で勝った、大会で優勝したという結果思考ではなく、もっと良くなりたい、より良い選手になりたいと考え、努力する過程に目を向けることのできる『プロセス思考』の選手になってほしいと思います。そのためには指導者や保護者が結果だけを見て評価するのではなく、努力の過程(プロセス)や一つひとつのプレーに目を向けることが大切です。指導者、保護者が一体となって、選手の成長のためには何がベストかを一緒に探っていってほしいと思います」

 トレーニングで培ってきたテクニックとフィジカルを試合で発揮するためにも、土台となる心に目を向け、メンタル面を意識した指導ができる指導者、保護者が増えていくことが、日本のサッカー界が新たなステージに突入するための、きっかけになるはずだ。

<了>

8月31日(土)放送のFOOT×BRAINでは、大儀見選手のトレーナー木場克己氏が指導するサッカーに役立つ体幹トレーニングを紹介します。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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