高野氏、朝原氏らが分析!桐生らは決勝に進めるか=世界陸上男子100m展望

構成:スポーツナビ

決勝進出が期待される桐生と山縣。記録としても日本人初の9秒台突入なるか注目だ 【築田純】

 陸上の第14回世界選手権モスクワ大会が現地時間10日に開幕。注目の男子100メートルは、初日に予選(日本時間10日25時15分)、2日目に準決勝(11日24時5分)と決勝(同26時50分)が予定されている。

 今季は若手の躍進もあり、大きな期待がかかる日本男子短距離チーム。同種目には、日本歴代2位となる10秒01を記録した桐生祥秀(洛南高)、昨年のロンドン五輪で準決勝進出を果たした山縣亮太(慶応大)がエントリーしている。
 世界に目を向けると、やはり“世界最速の男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の走りに注目が集まる。大会前に起こったドーピング問題で、最大のライバルと目されたタイソン・ゲイ(米国)らが欠場となったが、その中でボルトがどんな“伝説”を残すか?

 スポーツナビでは、男子400メートルの日本記録保持者でもある東海大の高野進教授、北京五輪男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治さん、スポーツライターの加藤康博さんの3人に、男子100メートルの見どころなどを語ってもらった。

ボルト選手の強くて美しい走りに期待(高野進)

 五輪後の世界選手権の位置づけは、4年周期の1年目。リフレッシュできる年であり、リスタートの年となります。休養を取る人もいれば、新しい取り組みを試みる人もいます。私の現役時代は、プロとして五輪翌年は休養に当てることもありました。五輪にピークをもっていく必要があり、五輪の年は冒険がなかなかできませんので。ただ、今の日本人選手の多くは、毎年が勝負という感じで、のんびりする選手はいませんね。特に若い選手にとっては、五輪での経験を生かし、自信をつけて気持ち的に落ち着いて大会に臨める世界選手権となります。

 男子100メートルに臨む日本人選手に関してですが、まず山縣選手の特徴は、低い姿勢から加速に乗せていき、トップスピードを迎えても、その後の減速が少ないところです。普通は50メートル辺りでトップスピードに乗り、そこからスピードが落ちていくのですが、山縣選手の場合は、そのスピードを持続できるという特徴があります。走りはコンパクトに足を置いていく感じで、ギアをオートマチックに上げていく。知らず知らずのうちに加速が進み、その加速を維持できるイメージです。
 メンタル的にもマイペースなところがあり、周囲の影響を受けづらい。肝が据わっていると言いますか、良い意味で自分の世界を持っている選手です。世界大会だからといって気が散ることがないので、自分らしい走りを貫けるのではないかと思います。

 桐生選手については、山縣選手と同じで安定した走りをしていると思います。加速感が良く、スタートではすり足で出ていき、小さく前傾を保てる。それに基礎的なエンジンができている印象です。体幹が強く、体の中心から力を出せる走りができています。基礎ベースができているので、普通の高校生とは全然違う体の強さがありますね。桐生選手には、昨年のロンドン五輪で山縣選手が出したぐらいのタイム(10秒07)を出してほしいです。
 ただ、直前にインターハイがあって、かなり体力的にしんどいとは思います。高校生にとってのインターハイは五輪のようなもので、そこにピークをもっていったはず。ただ余裕を持って圧勝しているので、燃え尽きてはいないと思っています。体が疲れているのは当たり前ですが、そこは高校生という若さで乗り切り、世界選手権でも同じ力を出せる可能性は十分あると思います。いま持っている力を出し切れば、本来の彼の実力である10秒10台、さらにその上の記録が狙えるでしょう。まずは彼が考えた通りの走りができ、自分のベストを世界の舞台で出せるように頑張ってほしいですね。

 海外勢に目を向けると、世界中にいる10秒00前後で走る選手たちが、『ここがチャンス』と思って決勝を狙ってくるはずです。ドーピングの件でビッグネームがいないだけに、相当な欲を持ってくるはずなので、新星が現れるかもしれませんね。ベテラン勢が意地を見せるか、山縣らのような若い世代が活躍するか注目です。
 それでも今回の見どころはやはりボルト選手でしょう。ライバル不在で拍子抜けしているかもしれないですけど、前回の世界選手権(2011年テグ大会)ではフライングもしていますし、今回は必ず勝ちに来ると思います。やはり戦国時代の接戦よりも、スーパースターが圧倒的な実力を持ち、憎らしいくらいに強い方が、チャレンジャーたちとの戦いが魅力あふれるレースになると思います。
 大舞台で悠々と走る姿がボルト選手の最大の魅力、強くて美しい走りを期待したいですね。

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