高野氏、朝原氏らが分析!桐生らは決勝に進めるか=世界陸上男子100m展望

構成:スポーツナビ

桐生選手はどれだけ平常心を保てるかが鍵(朝原宣治)

リラックスして調整を続けるボルト。ドーピング問題でライバル不在の中、どんな走りを見せてくれるのだろうか 【写真:AP/アフロ】

 今回、私も現地で大会を見る予定ですが、実はロシアは初めて行く国です。どんな競技場かは分かりませんが、世界選手権を行うスタジアムということで、走りづらいトラックだったり、環境が悪いということはないはずです。ただ、日本とは気候が異なるので、体調管理は大切になりますね。それと、どんなレースになるかは風の影響も大きいかと思います。

 日本人選手について、まず山縣選手は昨年のロンドン五輪の経験以降、着実に力をつけていると思います。日本選手権でも体調をしっかり合わせて力を出し、狙った通りのレースができていました。それに、桐生選手というライバルがいて、周りからのプレッシャーがある中でも、しっかり力を出して戦えました。その後のユニバーシアード(7月、ロシア・カザン)でも、うまく調整できているようで、日本選手権にピークをもっていった後の難しい中でしっかり銀メダルを獲得できたことは、彼の実力を証明するものだと思います。昨年までは自分がどう転ぶか分からない心配があるレースが多かったと思いますが、今年は自信を持って走れている印象です。

 桐生選手については、今年に入って一気に生活や世界が変わってしまいました。昨年までは、普通の高校生だったのに、今年はそういうわけにはいかない状況です。周りの期待を背負っている中で、どれだけ平常心を保て、調整ができるかが鍵でしょう。世界選手権はインターハイを終えてからの戦いとなるわけですが、経験上、短い間隔でレースをするのはメリットとデメリットがあります。メリットはレースに同じ感覚で臨めるので、本番での失敗が少なく、そのリスク回避ができるということ。デメリットは疲労と調整の時間、特にトレーニングもしなければいけないので、それをうまくはめることができるかどうかが難しい所です。一連のサイクルにうまくはまるかどうかが課題ですけど、そこは高校生だから何とか大丈夫でしょう。

 今回2人にとっては、決勝という舞台を目指すチャンスだと思います。ドーピングの件で、確実に決勝に残る選手がいなくなったわけで、チャンスが広がっています。ただ、皆が同じことを考えていると思うので、まず2人には自分の走りをしてくれることを期待したいですね。
 優勝候補のボルト選手に関して言うと、よっぽどのことが起きない限り、負けることはないはずです。ロンドンの時も不調と言われ、今回と状況は似ていましたが、しっかりと本番に合わせて、リラックスして臨んできました。記録は彼のベストタイムを考えると伸びていないのですが、優勝に関しては脅かす選手がいないので、本人は大丈夫だと思っているでしょう。それを良いモチベーションとするか、逆に気を抜きすぎてしまうか、どうなるか分かりません。ただ、彼はスーパースターなので、自分が世界一だと言うことを再び印象付けるようなすごい走りを見せるため、世界新記録を狙ってくるかも知れませんね。

決勝進出へ 日本人選手に良い流れが来ている(加藤康博)

 本来、五輪翌年の大会というのは、世代交代や休養などで勢力図が変わるものですが、今回はドーピング問題という形で有力選手が抜けてしまったのは残念ですね。

 そのような中での大会ですが、日本人選手に目を向けると、こちらは良い流れが来ていると思います。山縣選手はロンドン五輪の予選で10秒07を出し、五輪での日本人最速タイムを記録しました。惜しくも決勝進出とはなりませんでしたが、準決勝でも10秒10で走り、大きい舞台で自分の力をナチュラルに発揮できるようになったと考えると、ポジティブな要素だと思います。

 桐生選手については、16年のリオデジャネイロ五輪を考えると、今回の世界選手権に参加できるというのは良い経験になると思います。今年は彼にとって初めて尽くしの年で、シニアの大会に出たのも初めて、外国人選手と走るのも初めて、日本選手権に出たのも初めて、海外のレースに出るのも初めてと、たくさんの経験を積んできたと思います。8日に行われた会見で本人も『経験の場として臨む』と話をしていましたが、今回の世界選手権では結果を狙うというよりも、自分のベストを尽くしてほしいと思います。
 桐生選手の走りについてですが、体を起こすタイミングに注目してほしいですね。大体13歩前後まで前傾を保って走るのですが、6月のダイヤモンドリーグ・バーミンガム大会ではいつもより早く体を起こしてしまいました。そのあたりの課題をしっかり修正できているかどうか。そして、もう一度10秒0台前半の記録を出してほしいです。

 近年の決勝進出者は大体10秒02、03辺りがラインとなります。『世界と戦う』という言葉の意味を考えた時に、決勝に出場することが条件になると思います。2人にはそこを目指してほしいです。

 優勝争いの話に目を向けると、やはり“ボルト1強”ではないでしょうか。ライバルが不在で、順位に対するプレッシャーがなく、どこまで本人が気分良く走れるか。過去のどの大会よりも比較的プレッシャーが少ない状態だと思います。今シーズンの状況を見ると世界記録更新と言うのは難しいかもしれませんが、彼は常識で測れない選手なので。09年ベルリン大会で世界記録が出てから4年が経ちますが、それ以降、記録の面では伸びていないので、ここで『ボルトが復活してきたんだぞ』という未来への期待感を抱かせるような、そんな走りを見てみたいです。

<了>

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